金沢、つくるプロジェクト01「作家のひと匙」
第2回セミナー「伝えることと、コミュニケーション」/講師:山本真澄さん

その他

2023.02.28

多くの作家が活動する金沢において、「圧倒的に足りていない業種」と工芸ディレクター・原嶋さんが指摘するのが「PR/広報」を専門とする人々。「作家のひと匙プロジェクト」第2回セミナーでは、長年パブリックリレーション(PR)の世界に身を置き、現在はフリーランスのPRとして東京を拠点に活動する山本真澄さんを講師にお迎えしました。
「つくる」に集中していると、つい付属的なものとして捉えがちな「伝える」ということ。けれど「伝える」を考えることは「なぜつくるのか」という問いに繋がり、制作自体にもフィードバックがあると山本さんは話します。当日の講演の様子から、一部レポートいたします。

フリーランスのPRとして活動する山本真澄さん。

<PROFILE>
山本真澄/2007年より、PRオフィス「daily press」に所属し、デザイン、インテリア、ものづくり、建築、ライフスタイルの分野を中心にパブリックリレーション(PR)、コミュニケーションに従事。2020年よりフリーランスとして活動を開始。これまでに担当したプロジェクトとして、CANNON、AGC、シチズンなどのミラノデザインウィークに出店した日本企業のエキシビジョン、デザイナー鈴木マサル氏の個展、デザインイベントAny Tokyoなどの企画展や美術展などがある。現在は国内のテーブルウェアやインテリアをはじめとするブランドやデザイナーの個展や企業のエキシビジョンのPRや企画の他、オルタナティブ・スペース“nadoya”の企画、PRに携わる。

2022年7月29日に、金沢クラフトビジネス創造機構にて開催されました。

「プレス」「パブリックリレーション」とは何か?

「今回のセミナータイトルを、『伝えることと、コミュニケーション』という形にさせていただきました。よく『PR(パブリックリレーション)』と言われるが、一体それって何なのか。プレスプレビュー、プレス発表会…など、“プレス”とつく言葉は沢山あるわけですが、まずそれが何なのかというところからご紹介できればと思います」と山本さん。

序盤では山本さんご自身のプロフィールを実際の事例を交えてご紹介いただき、作家個人から企業に到るまで「PR/広報」という仕事がカバーするエリアの広さ、そしてその多様性についてお話いただきました。その後は「マスメディア」と呼ばれる「新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、WEB」などを分類し、各々の役割や性質、クロスメディア社会における現状など、基本的な仕組みについて。

「これに加えて現代はSNSですね。いわゆる“インフルエンサー”と呼ばれる方々に情報発信を依頼するケースも増えているかと思います。けれど、実際に取材している記者・編集者の“客観的な視点”から語られている情報というのは、やはり信頼されるものだと私は思っていて。その意味でも『マスメディア』は今日でも非常に重要な役割を担っていると思っています」

「いわゆる『プレス』とは、これらのメディアの制作に関わる人全般を指します。記者や編集者、ライター、ジャーナリスト、スタイリスト、フォトグラファーもここに入るかもしれません。そこには媒体や企業に所属する人もいれば、今ではフリーランスで活動している方もたくさんいらっしゃいます。

そして“PR”とは、この『プレス』と呼ばれる人たちに『作家さんや商品の魅力を伝えていく』という仕事です。伝えるために展示会や企画展のプランニングをしたり、プロジェクトに関わる人選や、販促ツール(カタログ、ウェブサイト等)の制作をしたりもします。もちろん一方的に伝えるだけではなく、彼らからの問い合わせに対応したりするのも私たちの仕事になります」

大切なのは「相手に伝える工夫」

「では『展覧会をやります』『新商品を販売します』という時に、どんな出し方にするのか。そういったところから企画していき、それが固まってきたら『プレスリリース』に情報をまとめて配信していきます。それはこれまでお世話になったメディアの方々へのメールアドレスに送ったり、最近ではプレスリリース配信サービスなどもありますのでそういったものを活用する場合もあるかと思います。

そして一般公開する前日や、展覧会初日の午前中などにプレスの方だけを招いて『プレスプレビュー』を開催し、その場で取材・撮影をしてもらったり、在廊日が限られている作家のインタビューもここでとってもらったりします。

展覧会をやらない場合は作品やプロジェクトを紹介する『プレスリリース』を持参し、作品や商品サンプルと一緒に直接媒体社に持って行くことも。『PRの仕事』というのは大筋このような感じです。流れとしてはものすごくシンプルなのですが、ただこれをやる上で『どんな風に伝える』かという“相手に伝える工夫”というというのがすごく大事になってきます」

ここでメディアに向けての発信において、最も重要な情報源となる「プレスリリース」の書き方やそのポイントを、実際に山本さんが実際に担当された案件を例にいくつかご紹介いただきました。

「プレスリリースは1枚目の文章が非常に大事です。コピーアンドペーストでどんどんWebサイトやキュレーションメディアに掲載されていくからです。次にくるプロフィールは自分がどういう経歴で、どんな持ち味の作家なのか、そしてどういう信念を持って作品を作っているかをテキスト化している部分です。過去の作品・展示など、写真は一番伝わりやすいですね。毎度同じ内容を上げていたら同じ情報が重複して届いていると思われてしまうので、プロフィールもその都度アップデートしながら発表していくことが大切です。
もちろん、プレスリリースを送ってもそれがすぐに取材に繋がったり、メディアの方の反応がダイレクトにこない場合もあります。目に見える成果がすぐに出なくても、「コミュニケーションをとり続けること」が重要です。記者さんや編集さんは必ず見ているので、止めずに・辞めずに情報を発信して行きましょう」

信頼関係が前提になるPRの仕事

セミナーの後半は、工芸ディレクター・原嶋さんと山本さんの対談形式で展開されました。自身もデザイナーであり、ものづくりの現場に関わる立場から“PRの必要性”を痛切に感じている原嶋さんから、山本さんへの質問が次々飛び出します。

原嶋:ものづくりをしている人たちは、自分が満足するだけじゃなくて「誰かに見て欲しい」「評価されたい」という部分も絶対あると思うし、だからこそPRの力が必要だと感じています。
じゃあ実際に「個展をします」という時に、ただ「PRしてください!」とお願いする感じで良いのでしょうか?今日のご縁を機に、今後「山本さんにお願いしたい」という話も出てくるかと思うのですが。

山本:そうですね、まずは作品を拝見して、お話を聞くところから始めます。どんな気持ちで作品を作っていて、どんなところを目指しているのか。作家さんそれぞれのマインドがあるので、この辺りは膝を交えて一度お話しましょうと。
そして、「そもそも私が適切か」というところも最初に考えますね。人間同士なので相性の問題は大切です。PRは「作家に成り代わって自分の言葉で話す」といった場面も多いので、まずそこに満足していただけるかどうか、作家さんから信頼していただけることが大前提になります。ですから私が皆さんの話を聞く、と同時に互いに信頼関係を築いていくこと、特に作家さんとのプロジェクトはそこから始まりますよね。

なぜやるのか。核が決まると“花開く”

原嶋:作家が個展をするときに「なぜこの個展をするのか」という部分は、意外と本人も見えていないことが多い気がするんです。「年に一回は個展をやらないといけない」という状況があったとしても、そもそもなんでそうなったのか、そこから考えるとか。このようにPRをお願いする側の「発信したいこと」が明確でない場合、PRをするのもやはり難しいものなのでしょうか。

山本:そうですね。そもそも「PRのためにやるものなのか」それとも「自分が作った作品を“伝えていく”ために提案するのか」というところだと思います。ものづくりをしていく上で、「発信する」ということはいわば経済活動ですよね。それによって「作品が売れる」ということと、「自身の作家活動が世に知られる」ことがある。そういう時に「目指すものは何なのか」、そこをひとつ持って進めていかないと伝わりにくい部分はありますし、逆にその“核”となるものが決まった瞬間に「花開いていく」というか。結局そこが一番重要なのかなと思います。

原嶋:その段階から一緒に悩んでいただけますか?

山本:もちろんです。「どうしよう」というところから始まって、「それだったら伝わらないかな」とか、互いに色々とやりとりを重ねながら進めていく感じです。

原嶋:作家さんには「自分が表現したい作品をつくる」という部分と「食べていくためのものづくり」という両方があると思います。“アート”と“プロダクト”というか、そのバランスをどう取っていくかという悩みはよく耳にします。プロモーションやPRにおいても、その辺りの相談をしたいという作家は多いのではないかと思っています。

山本:そうですよね。例えば同じ300万だとしても、「100万円の作品を3つ作る」のか「100万円の作品が1個と10万円の作品を20個作る」のかといった風に、どうやったら今自分のファンの人たちは買いやすくて、どうやったら関わった人たちが皆ハッピーにプロジェクトを終えられるのか、というのは私も一緒に考えて悩みます。そこから「どんな会場にするのか」「どんな風な見せ方をすると、作品が際立って物が売れていくのか」といった部分が決まってくる、というところもあると思います。

原嶋:それって「PR」だけじゃなくて、もはや「ブランディング」ですよね。

山本:そうですね。ただそういう立場で入っている方もいらっしゃるので、私はあくまでも「PRとしての目線」からアドバイスするということを意識しています。メディアに露出する段階になった際に、“客観性”を一番忘れてはいけない業種なので。

主観と客観/作家とPR、そのバランス

原嶋:そうですよね。客観性は作っている本人も見失いがちです。要は「誰かが見るものだ」ということを忘れずに作っていくということですよね。だからこそ、“発信する内容”というものが出てくるんじゃないかな。そういう意味では「ステートメント」とかって、すごく大事だと思うんです。

山本:私もステートメントはすごく大事だと思っています。文章を書くのって、難しいじゃないですか。私も長年PRをしていますが、文章がなかなか上手にならないのが悩みだったりします(笑)。
でも、下手でもいいから「作家自身の言葉で書く」ということが、すごく大事なんです。その文章に関しては、私たちPRが代わって書けることではありませんから。

山本:(山本さんが以前手がけたプレスリリースを事例に)ここの文章は彼女の気持ちそのままです。日記のように書いている。これだけだと何を作っているかは全然わからないけれど「作家が何を考え、何に向かっているか」ということがすごく明確に伝わってきますよね。
かたや、私が書いたプレスリリースでは「彼女がどんな作家なのか」「なぜこの展覧会をするのか」ということを客観的な目線から書いています。彼女のステートメントを、“シェアすべき形”に書き換えている。でもここで一番大事なのが、その時の彼女が何を感じているかという“気持ち”の部分ですよね。

原嶋:確かに、事務的な内容の説明だけで個展の紹介が終わっている、というケースも多いですよね。「何のために作ったのか」ということはその場で言わないといけない。でも逆に、プレスリリースとしてはそれだけだと情報としては足りないですよね?

山本:そうですね。主観的な文章だけでも「何の話をしているのかな?」となってしまう。

原嶋:プレスリリースとしてそこに“客観的な情報”が載ることによって、作家の側も安心して「自分の内面」を語れると思う。そのバランスがすごく大事ですよね。ほんとは今日は作家さんだけじゃなくて、ギャラリーの方にも、この話を聞いてもらいたかったなぁ。

「コンセプト」ではなく、「ステートメント」を書いてみる。

山本:作家さんにも、すごく言葉巧みに伝える方もいれば、苦手な方もいるので人それぞれです。とはいえ「一回文字にする」ことをしてほしい。どうしても難しいという場合はこちらが聞き書きをしたりもするし、すごく膨大な想いがある場合はライターさんに記事を書いてもらうこともあります。その時々で「どんな風にしたら伝わるか」を、私たちも工夫しながらやっています。
そういえば、前回の原嶋さんの展覧会でのステートメントの文章、とっても素敵でした。原嶋さんの喋っている声が聞こえてくるような言葉だなと。

原嶋:あれはもう三日三晩悩んで…(笑)。ただ、あの文章は会場に来た人がその場で読むものなので、作品があってこそ完結するような内容で考えました。

山本:言葉にしてみるということ。それは作家自身にとっても「整理するタイミング」なんじゃないかなと思います。プレスリリースにもそういう役割があって、一連の情報をダーッとまとめていくと、関わるメンバー全員の中で情報共有されるし、それによって、よりチームもまとまっていくように感じます。

原嶋:今日のお話を伺って、作家の皆さんにも「自分のステートメントを書く」っていうワークショップをやってもらうのも良いかも、と思いました。「一つの作品のコンセプト」とはまた違って、ステートメントは「自分がどう向き合っているか」ということを示す文章だと思うので。書いてきたもらったものを発表し合って、“想いの伝え方”というのを客観的に見るというのも、面白いかもしれません。

山本:それは良いですね!

対談が盛り上がる中、終演時間が迫ってきました。そこで「最後にこれだけはお伝えしたくて」と山本さん。

「今回上から目線で話をしているようで、とても恐縮でした。でも、PRしている私自身というのは何にも作れないし、ゼロから何も生み出すことができません。作家さんやデザイナーさんといった『ものづくりをする人』がいて初めて私の仕事があります。だからこそ『作る人』に対しての憧れと尊敬の念が強くあって、それが私の原動力なんです。皆さんのお力になれたらいいなと思ってこの仕事をしています」

「つくる力」と「伝える力」、両者の間に信頼関係とリスペクトがあってこそ成立するPRという仕事。
今回は作家だけでなく、様々な業種にとっても学びがあるお話でした。

(取材:2022年7月29日)

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