金沢、つくるプロジェクト01「作家のひと匙」
第4回セミナー「写真家とギャラリー視点。出会いを編集する空間」 /講師:中島光行さん

その他

2023.05.25

作家が作品を発表する上で、なくてはならない「ギャラリー」の存在。しかし一口にギャラリーと言っても、そのスタンスは実に多様です。「作家のひと匙」で撮影を担当された写真家・中島光行さんは、京都でギャラリー&セレクトショップ、コーヒースタンドも運営するギャラリストの顔もお持ちです。
今回は中島さんのギャラリーとしてのスタンスや、作家との関わり方、また、領域を横断することで見えてくることなど、様々な角度からお話いただきました。

<PROFILE>
中島光行/写真家。「Community Store TO SEE」店主。京都生まれ。京都を活動拠点に国内外の風景や暮らし、寺院や職人たちなどを見つめながら、そこに内在する美しさを抽出することに注力している。撮影した博物館、美術館の所蔵作品、寺社の宝物、建築、庭園などには国宝や重要文化財も数多く含まれるだけでなく、寺社仏閣などの捉え方には今までになかったユニークな視点をまぜて表現し、新たな寺院撮影の潮流をつくる。日本郵便発行の「世界遺産シリーズ」「京都の風景シリーズ」切手への写真提供や世界中から注目される数奇屋・日本建築を作る集団「三角屋」、京都にある話題のイノベーティブレストラン「LURRA°」のイメージのビジュアル撮影などの他、雑誌、書籍、広告などのメディアでも活躍。またその他に、ギャラリー&セレクトショップの「Community Store TO SEE」主宰、プロジェクト「三度目の京都」発起人、出版レーベル「すなば」をブックディレクター幅 允孝(BACH)、グラフィックデザイナー鈴木孝尚(図録デザイン研究室)と共同で立ち上げるなど、多方面で活動している。

中島光行さん

「ものづくりをする人」へ根源的な憧れ

写真家であり、ギャラリー&セレクトショップ、コーヒースタンド店主という二足の草鞋を履いている中島光行さん。本業であるカメラマン歴は30年。キャリアのスタートが展覧会図録の仕事だったということもあり、工芸品や美術品・寺社仏閣などの撮影を得意とされています。
「僕は皆さんのように、何か“ものづくり”をされている方への興味や憧れをずっと抱いていて。作品や作家の撮影は自分にとってライフワークのようなもの」と中島さん。

写真家として広告や雑誌などの撮影をこなす中、10年前に知人の編集者やデザイナーと「3度目の京都プロジェクト」という、プライベートワークを有志で立ち上げます。
「誤解を恐れずに言うなら『嘘をつかなくていい仕事』というか、『応援したくなる仕事』をなるべくならやりたいと思っていて、そういう人たちや物・事と仕事ができるような撮影を意識的に増やしていこうと思っていました」。
そうした活動から多くの書籍・雑誌が出版され、商業誌とは異なる独自の視点が評判を呼びます。

そして中島さんにとってもう一つの大きな転機となるのが、2016年に京都でオープンさせた「Community Store TO SEE」。「ギャラリー/セレクトショップ/コーヒースタンド」といった多様な顔をもつ同店において、中島さんは店主として運営・ディレクションを自身で担当しています。

「『ものづくり』へのリスペクトという意味では、写真を撮る動機と似ていて。そういう人たちと『何か一緒にやりたい・交わりたい』という想いから、僕はお店を始めました」

「Community Store TO SEE」の一角。/© TO SEE inc.

“血の交流”が起こるように

店名に冠している「Community Store」は、「いろんな人を巻き込んで行く、コミュニティの場にしたい」という想いから。そのために意識しているのが「身内ノリ」にならないことだとか。

「京都にあるギャラリーですが『メイド・イン・キョウト』にはあまり頼らないようにしています。地元の作家を地元で発表してしまうと、知り合いが観にきて終わっちゃうということもあるし、それだと物も売れません。そうではなくて、純粋に作品を見にきてもらいたいし、京都の人にも県外の人にも足を運んでいただきたい。“血の交流”というか、“交ざって”欲しいんですよね。だからそこはフェアに、冷静にセレクトしているつもりです」

またTO SEEで開催する展覧会を「作品のジャンルやカテゴリーで線引することはない」と中島さん。
「『むちゃくちゃ良いな!』と思う人やものに対して、場所をちゃんと提供したいという想いがあります。基準はジャンル等ではなく、面白いかどうかですね」

© TO SEE inc.

ギャラリー展示は「恋愛に似ている」?

ギャラリー展示で声をかける作家は「自分の琴線に触れた作家さんや物、ということが大前提」。その上で「実際に個展につながるかどうかは、ちょっと恋愛に似ている」と中島さん。

「いくらこちらが『是非!』と思っても、その作家さんにとって『ここじゃない』ということもあるし、やはり“相性”というのはありますよね。場所と人と物とのマッチングというか。片思いではやっぱりダメで、“両思い”にならないと個展は難しい。なのでストーカー扱いされない程度にアプローチをかけています。(笑)」

また「“売れること”を一番のプライオリティとしない」ということもギャラリストとしての中島さんの信条の一つ。
「もちろん、ものづくりを生業としていたら『売れる』ということはすごく重要だと思うし、それがないと食べていけないという部分も理解しています。けれど、そこだけにプライオリティを置いてしまうと、何かがブレていってしまうんですよね。それでも『面白いからやりたい』と言ってくださる方々に助けられながら、何とか6年やってこられた感じです」

写真は「客観」、ギャラリーは「主観」

自身が「写真家」であり「ギャラリー店主」でもある中島さん。それぞれの仕事において「意識の切り替え」があるといいます。
「自身の作品を撮るときは別として、依頼を受けて写真を撮る時には客観的に、“一歩引いて見る”ということを大切にしています。それができないと上手くいかない場合が多いんです。けれど、ギャラリーの場合は“主観で突っ走れる”というか。自分の“好き”とか“想い”というものをぶつけられる。その辺の使い分けというのは意識してますね」

また、両者の領域を横断する立場にあることで見えること、起こることも色々とあるそう。
「写真家で、自分でモノを作れて、かつ売る場所も自前で持っているので、色々なことができる。なので最近では作家さんから様々なお声がけいただくことも増えてきました。その中には領域を横断するようなイベントもたくさんあって。」

「お店を始めた時には全く考えていなかったんですけど、実際にやってみて『なるほど、こういう仕事のやり方もあるんだな』っていうのは一つの気づきでしたね。“自分の領域の広がり”というか、写真だけやっていたら出会いなかった人たちと会えていて面白い。出会いってどこにあるものか、本当に分からないものですね」

“新曲”を出してもらう、“崖っぷち”まで背中を押す

「こんな感じなので、うちは全く“ギャラリー然”としていないんです。重厚な雰囲気の中で作品を観ていただくというより、“実験の場”というか、“トライする場”として使っていただきたい。
長年続けてきておられる作家さんにはやはり“売れ筋”というものがあって、お客さんもそれを期待して来場されるところがあるんですよね。けれど、作家さん自身は『新しいことをやりたい』という想いも常にある。コンサートで例えるなら、新曲歌いたいけれど『ヒット曲は絶対歌ってね』とオーダーがあって歌わざる得ない状況というか。そこに僕らは『うちで一回、新曲だけでやってみない?』って提案をしているんです」

「けれど当然、作家さんにも『ウケなかったらどうしよう』という怖さもある。そこを僕らが背中を押すんです、崖っぷちまで(笑)。でも大抵は『やってよかった』という結果になるんですけどね。あくまで一発目の発表がうちなだけであって、2回・3回と続けていけばそれが“スタンダード”になっていく。根本的に『ものをちゃんと作っている作家さん』ばかりなので、自ずと売れていくはずなんですよね。初っ端をどこに持っていくかという時に、『是非うちでやってほしい』と僕は思っています」

そしてセミナーの後半は、工芸ディレクター・原嶋亮輔さんを交えて、会場からの質疑応答タイムです。いくつかのやり取りを抜粋してご紹介。

Q1.すぐに“両思い”になれる作家さんと、“片思い”の期間が長かった作家さんとでは、展覧会をやる上で何か違いなどはありますか?

中島:特に違いはないですけれど、片思いが成就した時は、やはりこちらの鼻息は荒いですよね(笑)。僕も6年やってきて、恋愛で例えるなら自分(ギャラリー)の“チャームポイント”みたいなのが何かわかってきたので、割と上手く話せるようにはなってきたように思います。選んでいただくためにも、自分たちの中での「ブレない価値観」というか、「店の佇まい」というものはちゃんと作っていきたいと思っていますね。

Q2.金沢でも工芸が盛んであるがゆえに展覧会が内々になってしまう傾向があるように感じます。「作家に会いにいく」ことが目的化しているというか。

中島:そうですよね。なので僕の場合は、県外作家の作品を扱うことが多いです。京都の人には外の作家さんをみてもらいたいし、県外の方には作品を観に京都を訪れてほしい。その点京都って旅行ついでにこれたりするので予定に組んでもらいやすい。なのでうちの店は、展示によって客層はガラッと変わりますね。

Q3.ギャラリーという場を持ったことで、本業である「写真」へのフィードバックは何かありましたか?

中島:より作家に対するリスペクトが増しましたよね。もともとそこから始まっているけれど、自分がギャラリーをやることで、撮影に行った時の工房の見方とかも変わって面白いです。工房にもその人が現れていることが多いので。

観てほしいのは、“ダビデ像のおしり”?

原嶋:「カメラマンは客観、ギャラリーは主観」というお話があったかと思いますが、「自身のギャラリーのDMを撮影する」という時って、どんな視点になるんですか。

中島:割と主観で勝手に作ってますね(笑)、自分の店なので。でも今のところ、文句を言われたことはあんまりないです。今の時代SNSだったり、WEB上だけの告知で済ませるギャラリーさんも多いと思うのですが、うちの展示に関しては全部DMを作るようにしています。自分で写真が撮れて、編集者である妻がテキストを書いて、友人のアートディレクターに作ってもらう…と自前で作れちゃうというのも大きいですが。
なんというか捨てられたくないんですよ。「このDM取っておきたいな」と思わせたい。そういう意味ではインフォメーションって後々邪魔になるんですよね。だから本末転倒かもしれないけれど、僕のDMでは「情報」を重視していないんです。そもそもDMでは展覧会の概要全て教えなくてもいいと思っていて。やっぱりその場に来てくれた人に「答え合わせ」をしてもらいたいし、DMを遥かに超える情報量だったり熱量みたいなものを現場で感じてもらいたいんです。

中島さんが自前で作るDM。細々とした情報は最小限に

中島:今はなんでも事前に映像でみられる時代だから感動が減ってしまっていて、面白くないですよね。僕がよく言う例えに「ダビデ像のおしり」っていうのがあって。ルーブル美術館のダビデ像といえば有名で、写真できっと見たことがあるはず。でも、その「おしり」って見たことありますか?それって現場に行った人しか見ることができない。僕はそう言う「おしり」を観てもらいたいと思っているし、そのためのヒントというか気配を、DMではアプローチしているつもりです。

ギャラリーとの関係性の中で生まれる“新しさ”

原嶋:個展を開催する時、「自分の中の新しさ」だけでなく、「ギャラリーとの関係性で生まれる新しさ」というのもあると思います。ちなみに今日いらしている作家さんたちはどうですか?

参加者1:僕は作家活動を初めてまだ3年目くらいなので、かなり手探りな状態で。そんな中「何をどう求められているのか」「どういったものが売れるのか」など分からないことが多かったので、ギャラリーの方から「こういうの作ってみたら」とアドバイスいただけると作りやすいし、僕は提案してもらった方がありがたいですね。色んなことを試す中で見えてくることもあるので。

原嶋:「作家さんのタイプの違い」というのを感じることはありますか?

中島:ありますね。もう「世界観が固まっている」というか。そういう場合は、こちらから提案するというより、もう「自分でやってもらう」という感じです。「うちの客層だと100万のものは売れません」とか、動きやすい作品のサイズ感や価格帯はお伝えはしますが。

原嶋:若くてまだ無名で「まさに今から」といった作家さんとの展示もされてますよね。

中島:ありますね。むしろそちらの方が面白いです。当然店としては「有名作家」で「売れ筋を揃えて」という方がビジネスとしては良いのでしょうけど、うちがやることではないかなと思うし、純粋にそういう子たちが育っていってくれるのが嬉しいんですよ、お父さん的に(笑)。いや、そんな上から目線なものじゃなくて、彼らが認知されていくのを見るのが面白いんです。ただ、ギャラリーのビジネスとしては「賭け」な部分もあるので、そういった展示が年に1、2本ある分には全然良いなと思ってます。

「セレクト」ではなく「編集」的

陶片を模したクッキー。ギャラリーと併設するショップで販売した

原嶋:プレゼンテーションで紹介されていた展示で、「陶片」に模したクッキーまで制作された話がやっぱり面白いなぁと。「クッキーを作ってしまったから何かを失った」ということはなくて、むしろ逆に「陶片」から始まる世界観がそれによってすごく広がって、広がり方も心地良い。やっぱりそれって「ギャラリー」だけでなく「ショップ」もされているからこそのバランス感なのかな。互いにリンクし合っている。「面白いことをしたい」という熱量が噛み合うと、こういうところまで展開できるんだって感じさせられましたね。

今回お話を聞いていて改めて思ったのが、スタンスが「セレクト」ではなく「編集的」なんですよね。通常ギャラリーはそのテーマ性の中で作家や作品をセレクトして良い結果を出す、という作家の応援の仕方が多いと思うのですが、中島さんの場合もうちょっと“ウェット”というか。それは何より中島さん自身が「つくること」が好きだからであって、そのあたりに写真家的なクリエイティヴを感じました。
ぜひ金沢でも新しい作家との出会いを楽しんでください。

中島:はい、今回の撮影もとても楽しみにしています!

=============

閉幕時間を過ぎても質疑応答が続き、今回も充実したコミュニケーションがはかられた「作家のひと匙」セミナー。この翌日から、中島さんは「作家のひと匙」プロジェクトで、参加作家の工房を訪れる撮影ツアーに参加されました。写真家でありギャラリストでもある中島さんの目に、彼らの姿はどのように移ったのでしょうか。

(取材:2023年3月3日)

記事一覧へ

ほかの記事

OTHER ARTICLES

pagetop