レポートvol.3
「第 5 回 金沢・世界工芸トリエンナーレ」/「金沢の工芸の今」展

レポート

2022.12.23

芸術品としての工芸と、手に取れる品としての工芸と。

2022年11月13日(日)から11月30日(水)に渡り、金沢21世紀美術館 にて「第 5 回 金沢・世界工芸トリエンナーレ」 が開催されました。また、期間中の関連企画として「金沢の工芸の今」展が、近隣4ギャラリーにて同時開催。工芸芸術としてグローバルに発展していく“工芸”と、暮らしの中で手に取れるものとして生きる“工芸”。今回の試みにはそのどちらへの視点も感じられました。その共同企画の様子をレポートいたします。

「2022 金沢・世界工芸コンペティション」展示風景

世界に冠たる「工芸」のコンペティション

「第5回金沢・世界工芸トリエンナーレ」は公募展「2022 金沢・世界工芸コンペティション」と、企画展「工芸が想像するもの」で構成されています。

公募展「2022 金沢・世界工芸コンペティション」は、“工芸の新しさ”を世界へ発信する国際コンペティションとして若手工芸作家にとっても登竜門の一つとなっており、今回は63の国と地域から総計835点もの作品応募がありました。今回金沢21世紀美術館に展示されたのは、本審査を通った58作品。映えある大賞には、金沢市卯辰山工芸工房の研修生である田中里姫さんが輝いています。

「2022 金沢・世界工芸コンペティション」展示風景
「2022 金沢・世界工芸コンペティション」展示風景

過去最多となった今回の応募の中から選りすぐられた作品、そしてそれらが整然と展示されている光景は圧巻。一点一点に惹きつけられるようなエネルギーがあり、とても見応えがある展示空間でした。

「2022 金沢・世界工芸コンペティション」展示風景

国立・県立・市立、そしてラグジュアリーブランドが共同出品した企画展

また企画展「工芸が想像するもの」では、国立工芸館、石川県立美術館、金沢21世紀美術館の3館の収蔵作品を一堂に集めるという画期的な試みの上に、ロエベファンデーションクラフトプライズ2022の受賞作品を加え、多様な時代・ジャンルの工芸作品が並びました。

企画展「工芸が想像するもの」展示風景
企画展「工芸が想像するもの」展示風景
企画展「工芸が想像するもの」展示風景

工芸が息づく街の「今」を映す、「金沢の工芸の今」展

アートに近接していく工芸のエネルギーが感じられた「金沢・世界工芸トリエンナーレ」に対して、その対をなすように、または補完するように企画されたのが「金沢の工芸の今」展です。
ここでは「手に入れられる工芸」「暮らしに生きる工芸」としての魅力を、金沢という地域にクローズアップして紹介しています。

「金沢・世界工芸トリエンナーレ」での出品作家の中でも、金沢で活躍する工芸作家にフィーチャーしたギャラリーでの展示や、金沢らしい工芸の魅力が多彩に展開された作品・プロダクトをセレクトした展示販売といった形式で開催されました。

【金沢・クラフト広坂】

美術館に隣接する「金沢・クラフト広坂」の2階では、工芸の技術・伝統を今日のプロダクトとして魅力的に表現している県内メーカーの商品が並びます。どれも暮らしにすぐ取り入れられるような現代性があります。

「金沢・クラフト広坂」2階の展示スペース
量産型磁器の装飾である技術写シールを、現代のデザインの視点から再解釈したプロダクト「印判手再考」/secca
加賀・山中の「ろくろ引き」や二俣和紙の技術が生きる「はなもっこ置き時計」/有限会社シーブレーン
九谷焼の伝統的な意匠が描かれているドアノブ。和絵の具特有の質感など、眺めるだけでなく手触りでも九谷焼の魅力が感じられる。/九谷光仙窯
1F特設ブースには金沢市工芸協会会員5名の作品を展示

<出品作家>(1F特設ブース) 秋友 美穂 飯田 倫久 角間 泰憲 佐合 道子 田嶋 秀之
<出品事業者>(2F) ニッコー株式会社/ secca /有限会社シーブレーン/箔座株式会社/ 目細八郎兵衛商店/九谷焼鏑木商舗/山田武志/太田正伸/九谷光仙窯/ 友禅空間 工房久恒/三栄工業株式会社/株式会社箔一/金沢職人塾 一匠/ エイジデザイン/奥田染色株式会社(※順不同)
【金沢・クラフト広坂】
住所:金沢市広坂 1-2-25 金沢能楽美術館内/TEL:076-265-3320

【Café&Gallery musée 】

ギャラリー「musée(ミュゼ)」は、金沢美術工藝大学の学生や卯辰山工芸工房の研修生らなど、“作家の卵”といえる無名時代から積極的に彼らの展示を行っている金沢のギャラリーの一つです。
ここでは茶筒やデンタルフロスケースに至るまで、「使える工芸」としての小ぶりな工芸作品が多く展示されていました。
「美術館での展示だけですと「芸術品」ですが、同時にギャラリーで展示することによって、「使えるもの/買えるもの」としての工芸品の魅力が伝わると思います。この“手元に持てる”ということが、工芸において大事なことだと思っています」と、オーナーの益田さん。

金沢城の石垣から臨めるミュゼの窓辺
「spark」藤田 和
「愛の形Ⅱ」馬 高賢
「繭(デンタルフロスケース)」顔 冬虹

<出品作家>
顔 冬虹 /坂井 天心/田中 里姫 /邱 嘉文 / 中井 波花 / 奈良 祐希 /野口 健 /藤田 和 /馬 高賢
【Café&Gallery musée 】金沢市柿木畠 3-1/TEL:076-263-1187

【galleria PONTE 】

今という時代を感じさせながらも、普遍性のある作家・作品を紹介しているギャラリー「galleria PONTE(ガレリアポンテ)」。こちらではオブジェ・アートピースとしての、大型の工芸作品が展示されていました。
今回の「2022 金沢・世界工芸コンペティション」で大賞を受賞した田中里姫さんの繊細な作品も、若手作家ならではのリアルプライスで販売されていることにも驚き。これからの活躍が期待される若手作家の“青田買い”もギャラリーで作品を見る愉しみの一つです。

里見町の路面に佇む「galleria PONTE」
存在感ある作品群がホワイトキューブの中に鎮座する。
「肖々(ayakatte)」中井波花
「楚々、憧憬」「泡模様」田中里姫

<出品作家>
顔 冬虹 /田中 里姫 /邱 嘉文/中井 波花 /野口 健

【金澤水銀窟】

美術工藝たなか(石川・能美市)、GALLERY小暮(東京・神保町)、レントゲン藝術研究所準備室(東京・調布)といった、骨董・工芸・現代アートを横断する3社共同で運営するギャラリー「金澤水銀窟」。こちらではさまざまなサイズ感の、アート性の高い作品が展示されていました。金沢21世紀美術館からもほど近いこちらのギャラリーにも、「金沢・世界工芸トリエンナーレ」を観覧した多くの人々が訪ねて来たそう。

美術館と近隣4ギャラリーが連携し合った今回の試み「金沢の工芸の今」展。同じ作家でもギャラリーによって異なる表情を見せ、またアート・工芸好きにとっては金沢の街を巡る良いきっかけとなったのではないでしょうか。

「金澤水銀窟」1F展示風景

「たゆたう」藤田和
「金澤水銀窟」2Fの展示風景

<出品作家>
坂井 天心 /佐藤 静恵 /豊海 健太 / 奈良 祐希 /藤田 和 /馬 高賢
【金澤水銀窟】
住所:金沢市広坂 1-9-11/TEL:090-1840-0063

(取材:2022年11月)

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