金沢、つくるプロジェクト02 :「A New Polite of KOGEI」作品発表展会 @ユナイテッドアローズ金沢

レポート

2024.02.20

「工芸」×「家具」で開拓する、新たな工芸領域

「“ものづくり”をつくる」をコンセプトとした「金沢、つくるプロジェクト」の第二弾、「A New Polite of KOGEI」。今回は「家具」をフォーマットとして、領域に囚われることのない“工芸の新しい着地点”を探り、コンテンポラリーデザインとしての工芸領域の開拓を目指しています。
公募の中から選抜された5名の作家とともに、2023年5月からスタートした本プロジェクト。その作品発表会が2024年2月9日(金)〜2月25日(日)の期間、「ユナイテッドアローズ金沢」で開催されています。漆/陶磁/ガラス/竹といった素材を用いた工芸表現と、ソリッドな家具との予期せぬ出会いから生まれたものとはー 今回は本プロジェクトを担当した原嶋亮輔ディレクターと、プロジェクト参加作家の野口健さんにお話をうかがいながら、展覧会の様子をレポートいたします。

2月25日まで開催されている「A New Polite of KOGEI」作品発表展会
会場は「ユナイテッドアローズ金沢」
漆作家の野口健さん(左)と工芸ディレクターの原嶋亮輔さん(右)

新たな「きづき」を生む、デザイン視点のアプローチ

ー「金沢、つくるプロジェクト」第一弾として一昨年に開催されたプロジェクトは「匙」でしたが、今回「家具」をテーマとされています。その理由とは?

原嶋:やはり毎回作家さんにとって、新しい「きづき」や「きっかけ」になるプロジェクトにしたいという想いがあって、普段の制作とは違う角度からのものづくりができるテーマを考えていました。そこで僕自身が近年取り組んでいる、コンテンポラリーデザインとしての「家具」でご一緒したらどうなるだろうと。普段僕は古道具などを合わせているのですが、作家さんなら一体ここに何を持ち込むのか、シンプルにワクワクしたので。

原嶋さんが制作している、古道具や古材を用いた家具も展示されています

ー「コンテンポラリーアート」などの言葉はよく耳にしますが、「コンテンポラリーデザイン」は今回はじめて知りました。

原嶋:海外でコンテンポラリーデザインという概念は割と馴染みあるものですが、日本ではまだ大きな分野にはなってないので、確かに聞き慣れない言葉ではあると思います。僕も数年前に、自分が取り組んでいることを「それはコンテンポラリーデザインだね」と人から指摘いただいて初めて知ったくらいで。
「コンテンポラリーデザイン」は「デザイン」なので、コンテンポラリーアートと違ってもう少し生活の領域に近い「道具感」があるというか。かつ、「道具」でありつつも表現としての「アート」が加わっているという、何とも絶妙なポジションなんですよね。

「道具」なのか、「ものそれ自体」なのか

ー野口さんは普段漆での器やオブジェの制作を中心にされていると思いますが、今回「家具」をテーマにしたプロジェクトに参加しようと思った動機とは?

野口:原嶋さんの家具作品は以前から拝見していて、「そこに漆を持ち込むとどうなるか?」ということは分からないけれど「面白いものになりそうだ」という予感はあったので、是非やってみたいなと。
そして、先程のコンテンポラリーデザインの話にもあったような、「使えるもの」ではあるけれど「使い勝手云々」が論点ではない「作品の存在自体が魅力的なもの」。そういう作品を作りたいという想いが僕自身元々あったので、今回の企画の考え方も響くものがありました。

ー今回のプロジェクトのステートメントでも「“道具”なのか、“ものそれ自体”なのか」という問いかけをされています。

原嶋:そうですね。僕自身が取り組んでいる家具も「日常のダイニングテーブル」のようなものとは違って、その存在自体が「空間のアクセント」になるような、よりオブジェに近いものです。住居だけではなく、ホテルなど様々な施設のポイントにもなりうる。そういう意味では、工芸が元来持っている「場を彩る力/華やかにする力」というものと親和性があるように感じています。

漆作家・筧智景さんの作品

コントラストが引き立てる「素材感」

ーそれでは早速ですが、野口さんの今回の完成作品をご紹介いただいてよろしいですか?

野口:はい。僕は今回、乾漆技法を用いて形づくった、質感の異なる二つのオブジェをテーブルの中にしつらえました。下の作品は紐を漆で固めながら巻いてカーブを描いていくというオリジナルの技法で、上の作品は漆の特性が際立つ艶やかな仕上げにしています。オブジェのフォルムは石のような、ゆらぎある自然物をモチーフにしています。

今回の野口さんの完成作品

野口:普段はこの二つの表現を一つの作品に混在させながら制作していたのですが、今回初めて別々の作品として「分けて」みたんです。するとそれぞれの質感が別々のものとして隣り合うことで、思わぬ効果も生まれて。自分でもこれは意外な発見でした。

下のオブジェで用いられているのが、漆で紐を固めながら紋様を描く独自技法
野口さんが普段制作している漆作品。器やオブジェが中心。

ー本当ですね。表現の違いに加えて、「ガラス」と「金属」という異素材と組み合わせることによって、より「漆の素材感」が際立っているというか。

原嶋:「コントラストによって素材感を際立たせる」というのは、今回工芸と家具を組み合わせた目論みの一つでもあります。僕が古道具と金属やガラスの家具を合わせていたのも、ただ「古道具がかっこいいから」というよりも、そこに生まれる「違和感」や「奇妙さ」のようなものに魅力を感じていたということもあって。そういう意味でも、「工芸」と「家具」の取り合わせは「絶対に面白くなる」という確信が、スタート前からありました。

陶芸作家・今西泰赳さんの作品

原嶋:家具としてのフォーマットだけはこちらで設定して、あとは作家さんがそれぞれ持っている素材や技術をここにどう表現するか。今回そこを色々工夫していただきました。

野口:竹の軽やかさや、ガラスの伸びやかさなど、それぞれの作家さんが「素材の特性」を上手く生かしながら制作されているなぁと、作品を拝見していても感じますね。

竹工芸作家・成山悟司さんの作品を前に
ガラス作家・富永一真さんの作品

現代に合った、工芸の「領域拡張」

原嶋:今回、家具に合わせるガラスの色も作家さんに選んでいただいたのですが、野口さんは割とスパッと決めてましたよね。この鮮やかなブルーのガラスと漆との取り合わせが、新鮮なニュアンスを生んでいてい良いなぁと。

野口:そうですね。今回は「既存の漆作品から一歩踏みだす」ということを僕自身やりたかったので、普段なら漆と合わせないようなビビッドな青を、あえて選んでみました。

野口:漆は長い伝統がある素材なので、クラシックな表現も魅力的ですが、その一方で「こんなの見たことがない」と言われるような新しい領域も拡張していきたい。そうすることで、漆が現代において使われていく領域も広がっていくのではないかなと感じています。なので、その辺りは柔軟に捉えていたいですね。

スタートとしての「手ごたえ」

ー今回アパレルショップでの展示というのも、美術館やギャラリーで見る「工芸」「アート」の文脈とはまた違った感覚で新鮮でした。それでは最後に、展示というプロジェクトとしての一つのゴールを迎えての振り返りや感想をお聞かせいただけますか。

原嶋:そうですね、シンプルに「予想以上に面白いもの」になったなと。本当に“五者五様”の仕上がりで今後の展開の可能性を感じました。なので今回参加できなかった作家さん達にも、ぜひ今後挑戦していただきたいですね。
そういう意味でも今回は「ゴール」というよりも「スタート」としての手応えを感じています。「新しいお題の提案」がこうして目に見えるカタチとしてできたので、ホテルなどの施設に向けても発信していけたら。6月からは東京「銀座の金沢」でのお披露目もあるので、実際のプロジェクトなどにも繋げていけるとよいですね。

ー ありがとうございます。では野口さんからもお願いします。

野口:はい。今回のプロジェクトを通して、僕が普段やっている制作の延長線では出会えなかっただろう新鮮な発見や、デザイン視点からの気づきがあって、とても良い刺激を受けることができました。
僕自身「漆の魅力を引き出したい」という想いで制作を続けてきたので、新しい挑戦を続ける中で表現と素材の響き合いや、その可能性を模索していけたら。そして「作品が存在することで場の空気をつくることができる」、そんな作品をつくっていきたいですね。

(取材:2024年2月)

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「金沢、つくるプロジェクト02 A New Polite of KOGEI」作品発表展覧会
期間:2024年2月9日(金)〜2月25日(日)/10:00~20:00
   ※休場日なし、入場無料
会場:ユナイテッドアローズ金沢(香林坊2丁目1−1 東急スクエア 1F)
URL:https://www.kanazawacraft.jp/event/event-3781/

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