工芸のつなぎ手人材育成事業2023 レポート

レポート

2023.12.22

工芸と切っても切れない関係の「きもの文化」と「食文化」。体験から学ぶ若き「つなぎ手」たち。

工芸の「作り手」と「使い手」を繋ぎ、工芸品の価値を伝えていく「つなぎ手」。工芸が生まれる背景やストーリーまでも身をもって伝えられる人材を育成すべく、金沢市では「 工芸のつなぎ手人材育成事業」に取り組んでいます。2023年11月11日に開催されたのは「きものと食文化からまなぶ金沢の工芸」。加賀友禅に身を包み、着物姿で所作を学んだ後は、老舗料亭で昼食をいただくという贅沢な企画です。金沢美術工芸大学の学生13名を対象に行われた当日の様子をレポートします。

中央公民館長町館

まず中央公民館長町館に集合し、加賀友禅を着装した美大生たち。華やかで優雅な友禅姿を見てみなさん大盛り上がりです。早速、着物姿で講義のスタートです。講師を担当するのは、金沢市きもの文化コンシェルジュを務める鶴賀雄子さん。

金沢市きもの文化コンシェルジュ・鶴賀雄子さん

「実は私が着物の先生と出会ったのも、ちょうどあなた方と同じ19歳の頃でした。その先生が本当にしとやかで気高く、美しくて。それまでの私は真っ黒に日焼けしたスポーツ少女だったんですけれど、『私の進むべき道はここだ!』とその時に直感したんです」

「そこから着物だけではなく“礼法”というものにもどんどんハマっていきました。所作が美しいと女性らしさがぐんとアップします。着物を着た時くらい“キャピキャピのお嬢さん”じゃなくて、ぜひ女優になりきってみてほしい。今日はこの後料亭さんに伺いますから、そこでもまるで慣れているかのように堂々と振る舞えるコツを皆様に伝授いたします。」

金沢和傘の扱い方も

着物姿での歩き方や足捌きに始まり、美しい座り方や立ち上がり方、玄関での草履の脱ぎ履き、食事におけるマナーなど、かなり実践的かつ細やかな内容が盛りだくさん。着物を着慣れていない学生たちは戸惑いながらも、先生のリズム良い指導を一生懸命真似ていました。

着崩れない椅子の座り方
さっと草履を片付ける所作
見様見真似で一生懸命ついていく学生さん達

着物での所作やマナーを学んだ後は、着物文化の座学レクチャー。まずは着物の歴史や背景を知り、着物の種類やどんな時に何を着るのが相応しいのか、また加賀友禅がつくられる工程や特徴など、ポイントを押さえて教えていただきました。

「今回この講座を担当させていただくにあたり、何も知らなかった19歳の頃の気持ちを思い出しながら内容をまとめました。着物にときめいたあの頃の気持ちを思い出せたのも、皆様のおかげです。本当に良い機会をありがとう。」と笑顔で講座を締め括った鶴賀先生。充実の学びに学生からも拍手が送られました。

「着物でのマナーなど今後も役に立つ学びがありましたし、今日私たちが着させていただいている着物がどんなもので、どういう風に作られているか、それが知れたのもとても勉強になりました」と感想を聞かせてくれた参加学生さん。

さぁ、一息つく間もなく、次は寺町にある老舗料亭「つば甚」へと移動します。つば甚の玄関先では、若女将の鍔裕加里さんが出迎えてくれました。こちらでは工芸と密接な関係にある料亭文化、そして食文化について学びます。

「つば甚」若女将・鍔裕加里さん

まずは、実際につば甚で提供されている昼食をいただきます。「料亭の敷居を跨いだのは今回が初めて」という学生さんがほとんどで、皆どことなく緊張した面持ち。けれど午前中に鶴賀先生に学んだマナーを思い出しながら、丁寧な所作を心掛けていました。

昼食風景

料理についての説明は、「つば甚」料理長の川村浩司さん。季節感を大切にした料亭の食事構成や、器との取り合わせなど、料理と季節、そして器との切っても切れない関係性についてお話しいただきました。

「つば甚」料理長・川村浩司さん

「工芸品を“大事に使う”というところも、料亭のいいところの一つだと思っています。皆さんのお手元にある、蟹しんじょうが入っている汁椀も輪島塗のものですが、実は何度も塗り直して使い継がれてきたものなんですよ。(川村さん)」

料理が盛られてはじめて、器としての本領を発揮する工芸品。学生達も舌鼓を打つとともに実際に器を手に取りながら堪能していました。

そして食後は、若女将による施設案内。まずは床の間に埋め込まれている「鍔(つば)」を指しながら、元々は加賀藩の前田利家お抱えの鍔師だったという「つば甚」の歴史から話してくださいました。

床の間に埋め込まれた「鍔」

政財界から文壇まで名だたる著名人が訪れ愛されてきた「つば甚」。「月の間」には初代総理大臣・伊藤博文が窓からの景色を眺めに感銘を受けて筆をとった「風光第一楼(ふうこうだいいちろう)」という書が飾られていました。

ただ食事をするだけでなく、意思決定の懇談や接待の場など、様々な役回りを果たしてきた料亭。その奥深い文化について、実際の建物を見ながらご説明いただき理解を深めていった学生達。「建物やしつらえのどこを見ても歴史があり、館内がまるで一つの博物館のようでした」と感激した声も聞かれました。

「着物と日本文化というのは切っても切り離せないものなので、どちらか一方だけでは、後世に残していけないのではないかと思っています。ですからこのような機会をきっかけに、着物のことも工芸や食のことも、ぜひとも知っていただきたい。せっかく金沢にいらしゃっているので、実践の中で学んでいただいて、若い皆様がまた次の世代へと受け継いでいってほしいですね。(鍔さん)」

「今までは“つくること”ばかり考えていましたが、それをどう広めていくのか、という視点が得られたこともとても有意義でした」と参加学生さん。時間にすると約半日の「つなぎ手育成講座」。けれどその濃密な体験は、彼・彼女達にとっても今後の財産となりそうです。

今回は、それぞれに感じたことをSNSで発信するまでが一つのプログラムとなっています。それぞれ何を感じたのか。「#KOGEIつなぎ手2023」でぜひ検索してみてください。

(取材2023年11月)

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