工芸品修復相談カウンター「 KOGEI修復コンシェルジュ」

レポート

2024.03.19

なおして使い継ぐ。“替えがきかない” 工芸品。

修復したい工芸品が手元にあるけれど「一体誰に聞いたら…」「まずは相談だけ」「費用はどのくらいかかる?」などなど、きっかけをつかめずにいる方も多いのでは。今回はそんなお悩みにぴったりの「工芸品修復相談カウンター KOGEI修復コンシェルジュ」の様子をご紹介。
2024年2月23日〜25日の3日間にわたり「金沢エムザ」8階にて開催されたイベントは、金沢の伝統工芸に携わる職人が、工芸品のお手入れや修復などの相談に対面で応じてくれるというもの(金沢市、金沢クラフトビジネス創造機構主催)。当日の様子を、金沢漆器、金沢表具、金沢仏壇の3名の職人からうかがったお話を交えてレポートします。

金沢エムザ8階の一角に設けられた相談カウンター
来場者一人一人に丁寧なヒアリング

初日のオープン早々、カウンターを訪れる人の姿が。中には能登半島地震の際に自宅の置物が割れてしまったという方も。地震の影響もあり、工芸品修復のニーズが一層高まっていることを感じさせます。
カウンターで迎えるのは3名の職人たち。まずは向かって右側の大竹喜信さんから順にお話をうかがっていきました。大竹さんは三代続く仏壇仏具店の職人です。

金沢仏壇職人の大竹喜信さん

「何代も受け継がれていく前提」でつくられている

「金沢仏壇というのは、そもそも何代も受け継がれていくことを前提で制作しています。ですからきちんと手入れをすれば、100年は優に持つんです」と語る大竹さん。お手入れや修繕の目処は「30年〜50年に一度程度」だそうで「おじいちゃんおばあちゃんがお仏壇を購入される時は、お子さんではなくお孫さんにお伝えするんです。『将来直すときによろしくね』と」。

全て解体ができ、再度組み立て直せる金沢仏壇。「煤(すす)出し(※)」のような全体に及ぶ作業から、虫食い腐食といった部分的なものまで修繕が可能です。また、「木地」「宮殿(くうでん)」「木地彫り」「箔彫り」「塗り」「蒔絵」「金具」といった7つの工程から金沢仏壇は制作されていますが、まず「仏壇仏具店」に相談すれば、各工程の職人へ修理手配をしてくれるそう。

(※)煤出し…仏壇を一度解体し、綺麗に掃除する作業

【Before】修理に出す前の状態。全体的に燻んだ印象
【After】「煤出し」などを行い、見事に輝きを取り戻した仏壇

住まいの変化に合わせて、“仏壇のリノベーション”も

「修繕すれば100年は持つ」とはいえ、仏壇を置く家が減少している現代においては「仏壇を小さくしたい」という声も増えているのだそう。
「親から立派な『一間(いっけん)仏間』を受け継いだが、置くところがないから『半間』にしたいという方や、中には『扉の蒔絵を活かしながら、小さな仏壇に作り替えたい』といった、いわば“仏壇のリノベーション”をご希望される方もいらっしゃいますね」

「仏壇に限ったことではありませんが、やはり『伝統工芸』というものは現代の住宅事情に大きく左右されますから」と大竹さん。「綺麗な状態に戻す」だけでない、新たな修繕のニーズも仏壇には生まれているようです。

作品の「命」を救い、延ばす「表具」の仕事

次にお話をうかがったのは表具師の礒(いそ)慶太郎さん。「表具師」と聞くと「掛け軸や屏風・襖の制作」というイメージでしたが、現代では壁紙の施工なども仕事領域に入るそうで、「紙と糊を扱うものであれば、だいたい私たちの仕事になりますね」と話す礒さん。今回は工芸品修繕ということで代表的な「掛け軸」をテーマとしてお話をうかがいました。

幅広い「表具師」の仕事

そもそも絵や書を「掛け軸」にするのは、装飾的な美しさのためだけでなく、作品の「保全性を高める」という目的も大きいのだとか。「本紙(絵や書の作品自体)に『裏打ち』(※)を施して、巻いて箱に入れて保存することで、作品自体が補強され、そのままの状態で保存するよりもずっと長持ちします」と礒さん。

※裏打ち…紙や絹などを基底材に用いた作品の補強や変形を防ぐために施す技法

表具師の礒(いそ)慶太郎さん
「金沢市工芸展」に出品されていた礒さんの作品

「裏打ち」に隠された、職人の矜持とメッセージ

掛け軸の修繕において肝となるのが「裏打ち」。裏打ちとは作品(紙本、絹本)や裂地(きれじ)を平らに伸ばし、糊を満遍なくつけた和紙をそっと作品や裂地の裏にのせ「撫で刷毛」で撫でつけていく作業なのですが、この「出来の良し悪し」によって、「また次回修繕できるかどうか」が大きく左右されるという。

「ただ剥がれないように、強力に貼り付ければ良いというものではないんです。上手く剥がれないと、修繕ができない。ですから良い裏打ちというものは、『100年たっても剥がれず、かつ修繕するときには剥がしやすい』という絶妙な状態のものなんです」

そのため、裏打ちに使用される「糊」は一般的に想像される糊よりもかなり水っぽい特殊なもので、職人自ら大寒の日に仕込み、さらに2~3年瓶で寝かせたものを使用するのだそう。顧客の目には見えない部分にこそ、職人同士の矜持や次代の職人へのメッセージが込められているのです。

修復された掛け軸(右)。破れていた部分も、まるでなかったかのように綺麗に

「新しい制作から修復、いろんなご依頼をいただきますが、お子さんの書き初めであっても有名作家の高価な作品であっても、緊張する度合いは変わりませんね。どれも“替えがきかないもの”という意味では同じなので」と礒さん。“世界にただ一つ”を任される、修理仕事の重みが伝わってきます。

「修繕」は、立派な「職人の仕事」の一つ

そして最後にお話をうかがったのは蒔絵職人の清瀬明人さん。清瀬さん自身も作品制作の傍ら、漆にまつわる修理案件も受けています。

蒔絵職人の清瀬明人さん

「修理の依頼は今でもたまにいただきますが、そんなに数は多くないです。『職人に修理の依頼ができる』ということを、皆さんあまりご存知ないのかもしれないですね。昔は漆のものが多かったこともあって、父の代でも修理の仕事はよくきていましたし、割となんでもやっていましたよ」と話す清瀬さん。

「直した方が安いから」 ではなく

今や「工芸品の修理」の代表格ともいえる「金継ぎ」も、漆を用いて接着するため漆職人の仕事領域になります。
「金継ぎにも、普段仕事で使用している本物の金を使用するので、修理費を見積もると『買った方が安い』という場合が多々あります。それでもご依頼されるのは『直してでも使いたい』、そういった品だからなんですよね」

カウンターに見本として並べられていたダルマが描かれた平皿。こちらは依頼主のお子さんが気に入って家族5人分お揃いで購入されたものだとか。使ううちに割れてしまったものの、思い入れがあり、清瀬さんに金継ぎの相談がきたそう。

実際に清瀬さんが金継ぎした器がカウンターに並びます
欠けてしまったところも、金継ぎでは「地の粉」と漆でフォルムを再現できる

「パンダが描かれた子ども用のお茶碗を『もう何十年も使っているので』と持って来られる方や、好きなハリウッド映画グッズのマグカップだったり…。金継ぎしてまで直したいものって、そういう“想い入れがあるもの”だと思うんです。直した方が安いからとか、そういうことではないんですよね」

また、修繕することで、器自体の「景色が変わる」のも、魅力の一つだと清瀬さん。「金だけでなく、銀ですることもできるし、あえて漆の黒や朱色だけ仕上げるのも格好良かったりするんです。色合わせを考えるのも楽しいですし、壊れる前とはまた違った作品になるのも面白いですよ」

「良いものを、直しながら使っていく」という提案

「安いものを買って、壊れたら捨ててを繰り返す‥そういった消費の在り方だけではなく、『良いものを直しながら使っていく』こともこの企画を通して提案していけたらと思っています」と話すのは金沢市クラフト政策推進課の担当者。

「また『つくる』だけでなく『修理する』ということも、工芸職人にとって大きな仕事の一部だということ、そしてそこには実に多様な技術があることを皆さんに知っていただけたら」

今回のカウンターでは、修理の手順や予算などの具体的なお話のほか、知らなかった工芸の慣習や技術に出会うこともできました。次回の開催が決まりましたら、金沢クラフトビジネス創造機構のサイトでもご紹介していきますのでぜひご期待ください。

(取材:2024年2月)

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