レポートvol.1
「作家のひと匙」第1回セミナー・ワークショップ
レポート
2022.08.15
ものづくりを、つくる。
「金沢、つくるプロジェクト」始動。
2021 年まで続けられていた「商品開発実践講座」が、 今年から「金沢、つくるプロジェクト」と名称も新たにリスタートします。そのコンセプトは「“ものづくり”を つくる」。
記念すべき初年度のお題は「作家のひと匙」。今回は参加者募集の説明会を兼ねて開催された第1回セミナーと、実際にプロジェクトに参加希望した作家を対象にしたワークショップの様子をお伝えします。
<Seminar_vol.1>
“工芸”という枠に、捉われすぎず
2022年6月29日。金沢クラフトビジネス創造機構内の会場には猛暑の中、本プロジェクトに興味を持った18名の方が集まりました。講師は、同機構の工芸ディレクターであり、デザイナーの原嶋亮輔さん。「金沢、つくるプロジェクト」の発起人であり、プロジェクト全体のディレクションを担当します。
「金沢における“工芸”を、もっと幅広く提案していって良いのではないかと思うんです」とイントロダクションで原嶋さん。
「県外の工芸領域に関わるプロデューサーの方とお話しているときに『それって工芸なんですか?』と聞かれたことがあって。その地域では”伝統工芸”や”工芸”の枠組みがしっかり制定されていて、そうかと。金沢はその枠組みを軽やかに超えられるところが面白いのかもしれない、と僕は思いました。
金沢クラフトビジネス創造機構自体も、伝統といったことに固執しすぎずに、シンプルに『作り手さん達と一緒にものづくりすることをサポートしていく』という場所であるのが良いとおもっています。そういう意味では、今回のプロジェクトもあまり“工芸”という枠や、“伝統”というものにとらわれすぎずに参加していただけたら」
表に、たち現れるもの
続けて、原嶋さん自身の工芸観を開陳。「これはあくまで僕の個人的な考えですが、『工芸とは、表現である』という言い方が最近しっくりきていて」。
「『表に たち現れるもの』というか。それは“表層的なもの”という意味ではなくて、そこに込められたものが最終的にはものに表立って現れてくる。それが工芸の美しさなのかなと。内的な表現や問題提起としてのアート、そして課題解決を目指すデザインとの、そこが一つ大きな違いなのではないかと感じています」
「ものをつくる」、だけじゃつまらない
長年デザイナーという立場から、金沢の工芸にたずさわってきた原嶋さん。今回新たに「金沢、つくるプロジェクト」と名称を変更してリスタートさせたのには、「“つくる”を拡張したい」という想いが込められていると語ります。
「こういうプロジェクトって、“もの”をつくることがゴールになりがちですが、それだけじゃつまらない。ものをつくる、場をつくる、仕事をつくる、遊びをつくるー…。とにかく“つくる”ということの可能性を広げたくて、シンプルにこの名称にしました。参加してくださる方が、自主的に参画してもらないといけないものだからこそ“楽しく”ありたい」。
そしてここからが今回の本題。「金沢つくるプロジェクト」の記念すべき第1弾テーマ、「作家のひと匙」について。“カトラリー”ではなく、さらに絞った「匙」が今回のお題です。
「初回ということもあり、コンセプトに集中できるようなテーマに絞ったほうがよいなと思いました。“カトラリー”といった枠でもナイフやフォークだったら、贈り先のご家族分が必要になったりする。それだと贈り主にとっても負担になりますよね。対してジャムスプーンのような“匙”なら、ひと所・ないしはひと家族でひとつあれば事足りるわけで。そんな“唯一の一本”にできたらいいのかなと」。
匙は「何」を掬うのか
食欲を唆る匙、シーンをつくる匙、香りを掬う匙、誰のための匙…などなど、「匙といいながら、そこに理由があるのであればどんな表現でもいいし、逆にそういうものを見てみたい」と、原嶋さんによるイマジネーションを刺激するようなプレゼンテーションが展開されます。
さらに今回のプロジェクトは、金沢を中心とした人気店とのコラボレーションも特筆すべき点。
コーヒーショップ、パン屋、カレー屋、台湾料理店、こんか漬け店、その他ライフスタイルに関するお店など、幅広いジャンルの店舗とのコラボレーションを予定しています。作家さんとの組み合わせは、後日発表。
そして今回の成果物は、最終的には「ギフトボックス」というフォーマットで提出されることになり、来春には銀座の金沢でも「作家のひと匙展(仮)」も開催予定。
そこまでの間には、3回のワークショップや講師を招いたセミナー(こちらは一般の方も参加可能)、県外へのファクトリーツアーなども開催される予定。普段の制作活動の中では得られない方向からのインプットや作家同士のコミュニケーションを介して、発想をより膨らませていきます。
「大事なのは、プロジェクトゴールを『ものをつくる』ということで終わらせてほしくないということ。今回のプロジェクトに参加することで何をしたいのか、それぞれにとっての“ゴール”を設定していただきたい。ここに関わったことがメインの制作の部分にどういう影響を与えるのか、もしくはメインの仕事ではやりきれなかったテーマをここに持ってきてもいい。自主的な目標を設定してほしいし、それをぜひ聞かせてほしい。常に考え続けながつくることができる人と、このプロジェクトはご一緒できたらと思っています」
<Workshop_vol.1>
コラボレーションで生まれる化学反応
前回の説明会を経て、実際にプロジェクト参加することになったメンバーを対象にしたワークショップが翌月7月19日に開催されました。そこに集ったのは、木工や金工、漆芸そしてガラスからレースにいたるまで、さまざまな素材・技法を用いて日々制作に励む作家さんたち。今回は、いよいよ「作家にひと匙」プロジェクトのマッチング発表も行われます。
“はじめまして”同士な作家さんも多いことから、まずは自己紹介から。自身の作品の紹介や、制作スタンス、今後やっていきたいことなど、各自スライドや実物の作品を持ち込んで発表していきます。
宗教用具を制作する仏具職人さんや、ディレクターもこなすガラス職人さん、研究者としての顔をもつ陶芸家さんなど、実に多様でユニークな背景をもつ作家たち。普段は一人で作業する時間が長い仕事柄、それぞれの仕事ぶりやそのモチベーションなど、普段は知り得ない異ジャンルの作家さんの話に皆さん聞き入っている様子でした。
「一過性のものではなく、継続的にやっていきたい」
「展示して終わりではなく、販売まで漕ぎ着けたい」
「“作家”ということが、今回ひとつの切り口になりえないか」
「本気度の高い人たちが集まって交流していくことで、化学反応が起きるのではないかと期待している」
「自分の中でのテーマは今後も個人として掘り下げていきたいけれど、異業種や店舗の方との関わり合いの中で、自分が今まで作ってこなかったようなものも作ってみたい」
などなど、プロジェクトへの参加動機を語るみなさんの言葉からは、「成長したい/より良いものをつくりたい」という、あくなき探究心が垣間見えました。
相手がいたからこそ、の表現を
そしていよいよ今回の「店舗×作家」の組み合わせ発表。それぞれの背景、得意分野、もしくは全く異なる文脈から、原嶋さんがインスピレーションを駆使して紡ぎ出した珠玉の組み合わせです。
どれも「成果物をすぐに想像できる」というよりは、「おっ!そうきたか!」といった、膝を打ちたくなるような意外な組み合わせも多い印象。
「ぜひ、今回を実験的なプロジェクトとして関わってほしい。自分一人で完結するものづくりではなくて、『相手がいたからこそこの形になった』という、個人制作では辿り着けないであろう表現を出してもらいたい」と原嶋さん。
組み合わせ発表の後は、グループに分かれてトークセッション。「匙とは?」という根本的な問題提起から、制作の中で感じていることまで、普段なかなか集まる機会のない作家同士、膝を交えて語り合います。
「とにかく、一回拡げましょう。実現可能か、ということもありますが、まずは“やって楽しそうか”を大事にしてもらえたら」と、原嶋さんも議論に入りながらブレインストーミングを促進していきます。
和やかな雰囲気の中、第1回のワークショップが終了。それぞれ新たに与えられたお題に対して、作家としてどうリアクションするのか。そして、自身のもっている技術でいかに形とするのか。難しくも心踊る宿題を、それぞれが持ち帰ります。
「作家のひと匙」プロジェクト、こうして作家のみなさんがスタートラインに立ちました。今後はまず各自コラボレーションする店舗との打ち合わせなどを通して、イメージを具体的に詰めていきます。これからもその様子をレポートしていきますのでどうぞお楽しみに。
ほかの記事
OTHER ARTICLES