金沢、つくるプロジェクト01:Exhibition「作家のひと匙 カナザワポップアップ」@ハイアット ハウス金沢

レポート

2023.11.28

一つの終着点は、次への出発点

工芸作家の新たなものづくりを提案する、『金沢、つくるプロジェクト01「作家のひと匙」』。2023年4月には「銀座の金沢」でお披露目会となる展示「作家のひと匙展」が開催されました。
そして今回10月14日・15日に「ハイアット ハウス 金沢」にて開催されたのは「作家のひと匙 ポップアップ」。4月の時点ではまだプロトタイプだったものが製品化していたり、さらなる改良や進化をとげていたり。今回は展示だけでなく全ての商品が「購入」できるところにも、本プロジェクト“らしさ”が現れているように感じます。
今回は会場がレストランということもあり、コラボレーターの方々のフードや、ハーブティーなどがいただけたりと、より暮らしのシチュエーションに近い演出も。ポップアップ2日間の様子をご紹介いたします。

「ハイアット ハウス 金沢」 3階の「 Hレストラン」にて
プロジェクト参加者たちによる作品販売も
4月時点では試作段階だった作品の完成形もお目見え。/漆芸作家・大坪直哉さんのコーヒーカップ
今回はコラボレーター側で在廊された方も。植物療法士の石川亜矢子さんは会場でハーブティーを販売

「1年/展示/ギフトボックス」という、明確なゴール

会場である「 Hレストラン」の入り口カウンターでまず迎えてくれたのは、作家の今西泰赳さんと、「金沢こんかこんか」の中神遼さんペア。今回は、「こんかづけ」の魅力を実際に味わってもらうために、こんか漬けとチーズを合わせたカナッペも販売されていました。

「今回は、一年という期間の中で、“ギフトボックスでの展示”と言う明確なゴールがあったので、とてもやりやすかったですね」と今西さん。

九谷作家の今西泰赳さん(左)と、「金沢こんかこんか」の中神遼さん(右)
こんか漬けはレモンとの相性も◎

「中神さんと二人で話し合っていく中で『やはりこんか漬けにはお酒だろう』ということになり、酒器とこんか漬けの取り合わせでギフトボックスを考えました」。
生物学の研究者から九谷焼作家へと転身した今西さんらしく、発酵のミクロの世界を思わせる絵付けがなされた酒器に、こんか漬けを詰めてパッキングするというスタイルに着地。そして桐箱に入れて「ギフトボックス」の完成です。現在は受注生産で販売中とのこと。「こんか漬けを食べた後は酒器としてご利用いただけるので、ぜひホームパーティーやギフトにご活用いただきたいですね」(今西さん)

「今西さんは“ビジネスとしても成立するか”という視点を持った作家さんなので、そこはデザイナーの僕とも共通言語が多くて進めやすかったです」と、コラボレーターである「金沢こんかこんか」の中神さん。異分野でありながらも、互いの共通項やベクトルがうまく噛み合った一品に。

「生活の中に組み込まれるもの」という視点

「ガリガリ」「シュッシュッ」と硬質な音が響いてくる方に目をやると、会場の角では金工作家の岸洸実(ひろみ)さんの公開制作が行われていました。叩いたり削ったり、普段はなかなか目にできない金工の地道な制作工程に、来場者も興味津々で近づいていきます。

公開制作の風景

モロッコ料理のフードキャラバン「旅する料理」さんとコラボレーションした岸さんペアのギフトボックスは、「ガンパウダーと茶匙」のセット。“日々の生活の中にあるもの”を意識して制作された茶匙は、異国情緒がありながらも普段の暮らしに取り入れやすいシンプルなデザインに着地。今回のポップアップにあわせて、茶匙にはさらに改良を重ねて臨んだそう。

「自分の手元を離れて、誰かの“生活”の中に組み込まれた時にどうなるだろうと考えて、真鍮の茶匙に錆止めのコーティングを施しました。通常、酸化で汚れてきた真鍮は重曹で洗うと良いのですが、はたして購入してくださった方が問題なくできるだろうかと。前回の展示でも取扱説明書にその旨を記載していましたが、私だったら“取扱説明書”は取っておかなかもしれないなぁと」

“自分だったら”という、リアルな感覚と生活者目線を擦り合わせながら、さらなるブラッシュアップを遂げた匙は、以前よりもマットな柔らかな輝きを放っていました。

金工作家の岸洸実さん

そして、普段は“一点もの”としての作品を制作することが多い岸さんにとって、「プロダクト」としての制作はまた違う視点や思考回路が求められたといいます。「はじめてのことばかりで、プロダクトを制作している周りの作家さんに色々教えていただいたり。自分にとってとても勉強になりました」と笑顔を見せる岸さん。売れていった匙たちが、「よくやっているかなぁ」と今も想いを馳せているそう。

空気感もすくう、唯一無二の匙

「このプロジェクトを振り返って、面白かったというのが一番ですね。もちろん大変さもあるけれど、それも“面白さの一部”です」と話すのは木工作家の木下富雄(とみお)さん。

木下富雄さん

木下さんは台湾料理店「四知堂kanazawa」の塚本美樹さんとコラボレーションし、先が割れた木製の匙を考案。台湾ではお米を主とした料理も多いので、米粒もすくいやすい形状を模索し、4月の「作家のひと匙展」からさらに形状を改良。塚本さんをはじめ、四知堂kanazawaの料理長やマネージャーなど現場の皆さんに実際に使ってもらって、使用感のヒアリングも行ったそう。
「ある程度刺さる匙先でありながらも、やさしい口当たりであること。そしてお米もすくいやすい角度であることなど、いわゆる“デザインの線”としては見えないような細かいところの検討を重ねました」

今回完成した匙

完成品は、町家を改修した店舗のノスタルジックな空気感とリンクするような、やさしくてあたたかみのある匙に。作家とお店が一緒になって考えるスタイルだからこそ生まれた唯一無二の一品です。こちらはすでに四知堂kanazawaに納品されたそうで、店舗でこの匙にお目にかかれる日も近そうです。

“作家”として踏み出すきっかけに

「心の庭を手入れする」をテーマに調香師の「Qure aromablend」さんとコラボレーションした刺繍作家の飯岡千尋さん。立体刺繍で形づくられた葉っぱのかたちのデフューザーと、「四季の香り」をテーマに調合されたアロマのギフトボックスが販売されていました。

アロマは「夏は雨が降ってくる前の匂い」「冬は暖炉や炭の匂い」など、四季の記憶とリンクするような香り
細やかな葉脈まで刺繍で表現されたディフューザー

実は、普段はデザイナーとしての仕事が主体だったという飯岡さん。「これまで刺繍の方はイベントに出店する際に頑張って制作していたくらいだったので、“作家”として、“工芸”として作品を仕上げる、ということに全然慣れていなくて。なので今回のプロジェクトでは他の作家の皆さんについていくのが精一杯でした」。

デザイナーであり刺繍作家の飯岡千尋(いいおかちひろ)さん

「でも、思い切って参加してよかったです。ここまで細かい表現に刺繍で挑戦したのは初めてでしたし、新しい技法を一つ習得できたように感じています。そして何より、“作家”としての自身の活動に、今後もっと力を入れていこうと思える、ひとつのきっかけになりました」と笑顔をみせます。

完成品を手にしながらも「もっとこうできるかもしれない、アクセサリーにしてみたらどうだろうなとと、アイディアがすでにいくつか浮かんでいるので、今後も展開していけたらいいなと思っています」。

得られたことを、自由に解釈して展開してほしい

「今回のPOPアップでは、完成品としてそれぞれのギフトボックスを購入することができるので、“展覧会”というよりは“ショップ”っぽくできたらと考えていました」と話すのは、今回のプロジェクトを担当した金沢クラフトビジネス創造機構・工芸ディレクターの原嶋亮輔さん。
「また、コラボレーターの方々や作家さんにもご協力いただいて、ゆるやかに“それぞれができること”をこの空間で広げていただけたらいいなと」。

ディレクターの原嶋亮輔さん

「作家のひと匙」プロジェクトのディレクションを担当した一年を振り返り、「本当に作家の皆さんのお力あってのプロジェクトでした。僕としての意見は伝えさせていただいてはいましたが、どう受け止めるかはそれぞれに委ねていた面もあるので、こうしてきちんと形にしてくださったことに感謝しています」と原嶋さん。

そして今回が「金沢、つくるプロジェクト」の第一弾。「ある一定の着地点を設定することはできたけれど、“そこから先”をどうデザインしていくかをもう少し考える必要があると感じたので、また次に生かしていきたいですね」

それぞれに様々な気づきがあった「作家のひと匙プロジェクト」。ここでの成果物や、そこで生まれた様々なつながりは、今後機構の手を離れて全て作家さんやコラボレーターに委ねられます。今回の出会いを期に、すでに新たな製品化の話も進んでいるとか。「“着地して終わり”ではなく、作家さん達にはここでつくったもの、得られたことを自由に解釈して今後も展開していっていただけたら」と原嶋さん。

そして、現在「金沢、つくるプロジェクト 02」となる「A New Polite of KOGEI -工芸の新たな礼節-」も絶賛進行中。今後も発展する「金沢つくるプロジェクト」にご注目ください。

(取材:2023年10月/撮影協力:ハイアットハウス金沢)

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