金沢、つくるプロジェクト03:Exhibition「かなざわからのおくりもの」@金沢・クラフト広坂
レポート
2025.03.21
「金沢らしさ」と「香り」を、それぞれのカタチにしたギフトセット
工芸の可能性を考え、分野をまたぐものづくりを実践していく「金沢、つくるプロジェクト」。第三弾となる2024年度は「香りのスーベニアデザイン」をテーマに、アロマを楽しむギフトボックスを制作しました。
このプロジェクトに参画くださったのは、加賀友禅や硝子・陶芸で作品を制作する工芸作家4名(以下五十音順:金丸 絵美さん、髙梨 良子さん、結城 彩さん、吉本 大輔さん)。「香り」という形なきものと多様な工芸ジャンルのコラボレーションは、最終的にどのようなカタチに落とし込まれたのでしょうか。今回は2025年1月22日(水)〜2月2日(日)の間「金沢・クラフト広坂」にて開催されていた完成お披露目企画展「かなざわからのおくりもの」の様子からご紹介いたします。



香りは、“旅の記憶”と深く結びつくものだから
第一回は「匙」、第2回は「家具」をテーマとして、参画くださった工芸作家と共に新たな商品開発を行ってきた「金沢、つくるプロジェクト」。3回目となる今年は「香り」がテーマとなりました。
「金沢らしさを表現するギフトセットを、香りを起点として考えられないかなと考えました。香りは“旅の記憶”とも結びつきやすいですし、スーベニアとしてお客様に購入していただくことを考えた時、テーマとして良いのではないかなと」そう語るのは、工芸ディレクターの原嶋亮輔さん。「金沢、つくるプロジェクト」を担当するディレクターとして、初年度から作家たちと伴走してきました。

“商品”として世に出る“最終形”への意識
「このプロジェクトも3年目を迎えて、より“商品”に近づけたのかなと思っています」そう振り返る原嶋さん。今年はテーマだけでなく、最終的に商品が収まる「箱のサイズ」もはじめから設定されている、ということも象徴的です。
「これまでは“つくるもの”から考え始めて、“パッケージ”などは最後だったんですね。皆さんモノをつくることに一生懸命で、どうしても梱包やパッケージまわりは後回しになってしまい『商品』としてのブラッシュアップに十分時間をかけられなかったことも課題でした。けれど実際お客さんが最初に商品を目にするのはすでにパッケージされた姿ですよね。そういった意味で、箱のサイズを先に決めてしまうということが、最終的なアウトプットへの意識づけにもなるのではないかなと」

また、今回のプロジェクトでは「お客様が手に取りやすく、お店としても売りやすいように」と箱だけではなくラベルや商品に添えるしおりなどのデザインも統一されていて、「かなざわからのおくりもの」として統一されたブランディングもなされています。

普段の制作を支える“ベース”へと育つように
「みなさんに制作いただくアロマウェアは、テーマと箱のサイズ感以外は自由に考えていただいています。ただ、普段されているお仕事の中でも、より“商品”という位置付けを意識した『価格帯』や『工程』などは考慮していただくようお伝えしました。制作プロセスの中でも、効率化できるところを抽出したり、コストバランスも大事にしていただきながら。そういった商品がある程度の数動いていくようになると、普段の作品づくりを下支えしてくれる“ベース”になっていってくれると思うんですよね。(原嶋さん)」

Aroma:Qure aromablend (調香師)
“内側から見た金沢”を、香りで体験してもらう
「テーマとするからには、“香り”にもかなりこだわりました」と自信を見せる原嶋さん。アロマの共同制作者として声をかけたのは、「金沢、つくるプロジェクト」の初年度にもご参画くださった調香師のQure aromablend さん。「“金沢らしさ”を感じられる香り」をお題として、今回のためだけに3種類のオリジナル・フレグランスオイルを調合してくださいました。

「“金沢らしさ”という、大きなテーマを紐解くことに時間がかかりました」と語るQure aromablend さん。
「綺麗に整えられた“金沢”のイメージが、ある意味完成されつつある中で、“外から見る金沢”と“中から見る金沢”の差異に違和感を持っている一方で、私は金沢で育ち、現在も拠点を置いているので“俯瞰的に金沢を捉える”ことが難しく… そこで原嶋さんをはじめいろんな方と会話したり、書物を辿ったり、街中を散歩したりしながら、時間をかけて自分の答えを導き出していきました。」

「その過程があり、この街に身を置かないと感知できないような微細な感覚を表現したい気持ちが芽生えました。歩いていて感じる香りだったり、エリア固有の香りだったり、雨が降った時の香りだったり。自分にとっての“金沢”を、この3つのフレグランスに込めました。手にとっていただいた方の旅と重なり、街を体感する時間のお供にしてもらえたら嬉しいです。」

活力を湧き立ててくれるような「フェイントルビー」はまち歩きにもぴったり。静寂をイメージした「サイレントドロップ」は思索に耽るひとときに。深呼吸をしたくなるような「エアリーブス」は、時を重ねた庭園や城跡をイメージして。
香りはもちろん、それぞれ効能も違えど、3つに共通してブレンドされている香りもあるそう。「曇り空や湿度の高い“金沢の空気感”を表せたらと、能登ヒバをはじめとした香りを土台として使用しています。金沢に住んでいると、晴れた日はすごく嬉しい反面、晴れが続くと不安になることがあります(笑)。私たちにとって欠かせない質感や染み込んでいる感覚を、香りで表現しました。」


4名の作家それぞれの“金沢らしさ”を表現したアロマウェア
そしてオリジナルフレグランスと同じく、“金沢らしさ”をテーマとしたアロマウェアを考案したのは、金丸絵美さん(加賀友禅)、髙梨良子さん(硝子)、結城彩さん(陶芸)、吉本大輔さん(加賀友禅)の4名の工芸作家さん。それぞれが抱く「金沢らしさ」を、自身が扱う素材と技法で表現していただきました。
Aromaware:「香吊熨斗」金丸絵美さん(加賀友禅)
香りを彩る、“熨斗”のような存在に。

金丸染工の新商品開発を担当する金丸絵美さんが制作したのは、友禅を用いた新たな形のアロマウェア。こちらは友禅の技法で絵付けされたリボン状の絹布で、結んだり置いたり畳んだり、お好きな形の“台座”として、アロマオイルをたらしたムエット(紙)を差し込んで香りを楽しみます。
「香吊熨斗(こうつりのし)」という商品名もユニーク。「金沢を表現した香りに添えて彩る、“熨斗(のし)”のような存在になれたらと思って、この作品名をつけました」と金丸さん。


“日常の奇跡”を、加賀友禅で切り取る
絵柄は全4種類。金丸さんが日々仕事をしている加賀友禅工房の裏手を流れる浅野川や草花など、日常の何気ない風景を友禅ならではの大胆な構図で切り取り、一枚一枚丁寧に手描きで絵付けされています。
「能登半島地震を受けて“当たり前の日常”がいかに奇跡的か、そして“希望”というものの尊さを、改めて感じました。その中で、“視点を変える”ということの大切さを、このアロマウェアのデザインに込められたらと考えて制作しました。」


加賀友禅を家業にする家に生まれ、自身も加賀友禅の道に進んだ金丸さん。昨今“着物離れ”が進む中で、加賀友禅を用いた小物などの新商品開発は、金丸さんが普段から積極的に取り組んでいたことでした。

「私はこれまでもずっと“手描き”で友禅小物を制作して来たので、今回のアロマウェアも手描きで制作しながらも、どうやったら価格帯を抑えられるかデザインや工程を工夫しました。それでもやはり1万円前後の価格帯にはなってしまうので、ここは今後の宿題だなと感じています。」と金丸さん。

「また、今回はパッケージから宣伝用の写真までクオリティが高くて、原嶋さんの方でデザインしていただいたおかげで、SNSでも反響がすごく良いんです。これまでは作品を作ることばかりに一生懸命になっていたので、もっと細部までプロデュースしていくことの大切さを学びました。」

Aromaware:「香りの泉」髙梨 良子さん(硝子)
素材の特性を活かして「香り」と「時間」を楽しむ
硝子作家の髙梨良子さんが制作したアロマウェアは、硝子の素材感を堪能できるソリッドなデザイン。アロマにあわせて3色展開されていて、それぞれの縦縞模様で金沢のイメージが表現されています。

器のくぼみの部分が擦り硝子加工になっており、そのマットな質感は金沢の曇り空や空気感を表しているよう。この部分にフレグランスオイルを垂らすと、オイルが広がると同時に、擦り硝子部分がじんわりとクリアに透き通っていくという、硝子素材の特性を生かした仕掛けが施されています。「オイルが硝子に染みていく“時間”や、“質感”もあわせてぜひ楽しんでいただけたら」と髙梨さん。


富山ガラス工房出身の髙梨さん。普段から「作品」と「商品」のどちらもバランスよく制作していて、コラボレーションにも積極的に取り組んでいるそう。「それぞれのテーマに合わせて自分に何ができるか、いつも考えながら取り組んでいます。それによって、制作の幅も広がっていけばいいなと」。
「今回は“お土産”としてのギフトボックス提案だったので、あまり繊細なものだと硝子の場合壊れてしまう可能性もあります。海外の方でもトランクに入れて持って帰れるような重さやデザイン、そして購入後のお手入れも負担のないものに…など、購入いただく方のシチュエーションや使用シーンを思い浮かべながら制作しました。」

どんな状況でも、つくり続けられるように。
また、今回の展示に合わせて、追加で制作したアロマウェアが、硝子の中にプクプクとした気泡が浮かんだガラス作品。こちらは髙梨さんの新作シリーズを応用展開した商品だそう。

「色硝子は金属の化学反応で発色するのですが、これはその化学反応が起きた瞬間、つまり“色が生まれた瞬間”を留めたものです。近年色硝子も手に入りづらくなってきたりと、制作する上で“当たり前のもの”だった前提すら日々変化しています。けれど、どんな状況になっても私たち作家はつくっていかなくてはなりません。この作品も、そんな試行錯誤の中から生まれたものです。」

プロダクトとして考え抜いた作品と、実験的要素を含んだ新たな作品。「今回どちらも展示してみて、お客さんの反応をみられた。」と髙梨さん。そんな距離感でものづくりができるのも“中量生産”ができる工芸プロダクトならではの強みといえるのかもしれません。
Aromaware:「Point」結城 彩さん(陶芸作家)
彼の地に想いを馳せる、暮らしに溶け込む“点”として
雲のような、生命体のようなー‥。有機的なフォルムが特徴的な、陶芸作家・結城 彩さんのアロマウェア。こちらは、くぼみの部分にフレグランスオイルを垂らして香りを楽しみます。


「雪が降ってすべてが白に包まれて一つになる風景が、すごく好きなんです。雪の下に何があるのか、もこもこした柔らかなフォルムが随所に生まれているのも愛しくて」と話す結城さん。結城さんは県内の山間部に自宅と工房を構えていて、そこで日々目にする雪景色がアイディアソースになっているそう。
「暖かくなってくると、そこに雪解け水の露が葉や枝からぽたぽたと落ちて、小さなくぼみができるんです。私はその“くぼみ”に春がくる予兆を感じるんですね。そういった“良きことの予感”というか、希望のようなものを、アロマウェアとして表現できないかと考えました。」

結城さんがこだわったのは、表情と深みのある“白”。普段は鮮やかな釉薬を用いることが多い結城さんですが、今回はあえて白一色で商品を展開しています。
「雪の色も一色ではありません。『白』にも何百色もあるといわれていて、光の加減や質感によっても、その見え方も変わります。今回は何度も白の釉薬を重ねて焼いていて、窯内の位置や高さで雰囲気も変わってきます。『その時その時の白』をぜひ味わっていただけたら」


「また、個人的にもQure aromablendさんがつくるアロマがすごく好きなので、今回コラボレーションさせていただけてすごく嬉しかったです。金沢らしさをテーマとしたフレグランスオイルも素晴らしくて、『これは“香り”というよりも、もはや“色”だな』と思うくらい、鮮明に色彩を感じて。なので私が作るアロマウェアが白だったのも結果的によかったのかなと思っています。」

「アロマを使わない時でも、オブジェのように本棚などに飾っていただけたら。仕舞い込まずに日常的に目に入るところに置いていただくことによって、金沢や能登のことを思い出していただく“ポイント(点)”のような存在になれたら。(結城さん)」
Aromaware:「松韻」吉本 大輔さん(加賀友禅)
形のない“香り”と“記憶”を包む風呂敷
加賀友禅作家として手描きの着物を制作する一方で、友禅染めの特徴を生かしたプリントテキスタイルブランドを展開している吉本大輔さん。傘やバッグなど、幅広い商品開発に自身で取り組んでいる中でも、今回は「自分の普段のアプローチとはまた違う広がりがほしくて」プロジェクトに申し込んでくださったそう。


元々「香り」の分野に興味があり、ファブリックとの相性に可能性を感じていたという吉本さん。今回はフレグランスオイルということもあり(滲みになる)、布には直接染み込ませない形のアロマウェアを考案。「“香り”自体はカタチのないものですが、香りを思い出と共に持ち運ぶイメージで、今回はミニサイズの『風呂敷』をデザインしました。」
「風呂敷の絵柄は“松”をモチーフとしています。雪吊りなど金沢を象徴するアイコンにもなりますし、品格のある松は武家文化の象徴でもある。そして松の凛とした雰囲気は、金沢に生まれ育った自分が金沢に感じている街の空気感とリンクするように感じています。」


「手描き」と「プリント」を、意識的に分けて制作している吉本さん。「今回のプロジェクトのもう一つのテーマとして『自分の仕事とは別で動いていく商品展開』ということもあったと思うので、今回はプリントを採用しました。また、お土産として購入いただける価格帯を考えた時、手描きではとても現在の価格におさまらないので」

「つくりたいもの」をつくる、自分を起点とした“作品”と、「手にとってもらえるもの」として“他者”の目線から出発する“プロダクト”。そのどちらも行き来することで、また新たな視点が獲得できるようにも感じました。
「金沢、つくるプロジェクト」から生まれた、新しい金沢初のスーベニア。4月からはいよいよ金沢・クラフト広坂 1階での販売も始まります。“金沢らしさ”という一つのテーマのもとに生まれた、それぞれ全く異なるアロマウェア。金沢のお土産としてはもちろん、おくりものにもぴったりなギフトセット。お祝いごとの多い春、ぜひ一度ご覧になってみてください。
(取材:2025年1月)
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【販売場所】
金沢・クラフト広坂
住所: 石川県金沢市広坂1丁目2−25
HP:https://www.crafts-hirosaka.jp/
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