インタビューvol.12
金沢里山工房交流会/吉岡正義さん、齊藤美知代さん

インタビュー

2023.08.16

展覧会を包む、里山の“のびやかさ”

2023年8月16日(水)より「金沢・クラフト広坂」で、「金沢里山工房交流会」による展覧会「金沢 里山のKOGEI 2023」がスタートします。(展覧会詳細はこちら

金沢里山工房交流会は、「里山」を一つのキーワードとして、多様なジャンルの工芸作家が集まる実にユニークな団体。今回は団体設立の経緯や活動内容などを、金沢里山工房交流会 会長の吉岡正義さんと、会員の齊藤美知代さんにインタビューしてきました。

金沢里山工房交流会会長・吉岡正義さん(右)と会員の齊藤美知代さん(左)
金沢里山工房交流会も拠点として利用している「金沢市三谷さとやま交流広場」にて

はじまりは、里山 × 作家 × 空き家

-金沢里山工房交流会は、金沢市が管理する団体であるところも特徴的です。まずは設立の経緯についてお聞かせ願えますか。

吉岡:もともとは「山間部の空き家に工芸家を誘致する」という金沢市の動きから、金沢里山工房交流会は平成7年に発足しています。
里山が豊かな地域は過疎化も進んでいて、空き家が増えています。かたや工芸家としては制作ができる広いスペースかつ、家賃が安い場所を探している。それも、どうしても制作する中で汚れてしまう節もあるので、いわゆる不動産情報としてはあがってこないような物件を探しています。そういう意味では、「里山の空き家」と「工芸家の工房」というのは相性が良いんですね。

当時の金沢市の制度を利用して工房を開いた第一号が、実は僕なんです(笑)。ここ(金沢市宮野町)からもほど近い、富山との県境あたりの集落に、24歳で工房を構えました。そこは昔ながらの立派な古民家で、しっかりとした柱や梁は漆塗り。薪で焚くお風呂もまだ残っていたりして…。庭に窯を設けることもでき、制作場所としてとても恵まれていました。

齊藤:わぁ、羨ましい…! 私もそんな自然豊かなところで暮らしてみたいです。

吉岡:もちろん元空き家なので、大変な面もありますよ。古い家屋って土壁なので、冬は土が収縮して隙間風がものすごく入ってきたりしますしね(笑)。自然はそう甘くはないです。

-そういった里山で暮らす知恵やノウハウを教えていただけるのもありがたいですね。

吉岡:ただ、これは北陸特有の気質なのか、「空き家になっても人に貸さない」というケースが多くて。また、物件があっても雨漏りをしていたり、自分で手を加えないといけないところも多い。そういう意味で、なかなか貸す側と借りる側のマッチングが難しかったという面もあり、この制度自体は発足数年でなくなっています。

齊藤:私は2年前に金沢里山工房交流会に入会したのですが、発足の理由として「里山の空き家情報の共有」もあったとは知らなかったですね。

作家としての歩み方を「先輩」から学ぶ

-では齊藤さんは、金沢里山工房交流会のどんなところに魅力を感じて入会されたのでしょうか。

齊藤:はい。実は私は「作家」からのスタートではないんです。父が仏壇彫刻の仕事をしていまして、私も父のもとでずっと「職人」として仕事をしていました。仏壇における木彫刻なので、それは作家のように「名前が出る仕事」ではありません。
けれど、個人的に少しずつ小物を作るようになって「個人として作品を見せる場」が欲しいという気持ちが芽生えてきて。ちょうど知人から金沢里山工房交流会に誘ってもらったこともあり、作家の先輩方から色々勉強させていただこうと入会しました。

-なるほど。作家活動を本格的に始めていく一つのきっかけとして、金沢里山工房交流会に入会されたのですね。ちなみに、金沢には「作家のグループ」というものはいくつかあるのでしょうか?

吉岡:金沢は作家さんが多いので、数人からなるこじんまりとしたグループは色々あると思いますよ。
ただ、これだけ会員がいて(現在会員25名)、さらには多様なジャンルの作家さんが集まっているグループは珍しいのかもしれませんね。

-確かに、陶・漆・染織・金工・ガラス・木工…など、実に多様なジャンルの作家さんが金沢里山工房交流会には集まっています。活動内容としてはどんなことをされていますか?

吉岡:代表的なものとしては年2回の展覧会ですね。個展には個展の良さがありますが、同時にグループで展示する良さもあります。多様な作家の作品が並ぶことで生まれる“トーン”のようなものもあるので。

あとは視察などの研修会も開催しています。「何かをつくる」ということは往々にしてインプットがないとできません。それは自然からかもしれないし、人との繋がりかもしれない。金沢里山工房交流会ではそういったインプットの場にもなっていると思います。

「金沢市三谷さとやま交流広場」の裏手に広がる市民農園と里山の風景

「里山」と「制作」の関係性

-会のキーワードである、「里山」への想いがあればお聞かせ願えますか。

吉岡:やはり、独立してすぐに里山で工房を構えられたということが、今でも自分の“肥やし”になっていると感じますね。約10年間そこで制作していましたが、溜池があったりと自然豊かで、村人との交流も温かくて。ゆったりとした気持ちで作品づくりに向き合うことができました。その時間があったからこそ、今の自分があるように思います。

齊藤:この交流会に誘っていただいた時に「あんたは山に住んどるから大丈夫や」って言われたのが印象的で。当時は「どういうこと?」って聞き返した記憶があります(笑)。入会の一つの基準として「里山で制作しているか否か」が問われることって、ほとんどありませんからね。

私の実家も末町なので自然豊か。現在の住まい兼工房も山が近いです。窓の外も緑が広がっているので、窓際の自然光で日々制作しています。一度「便利かな」と街なかに住んだこともあったんですが、鳥の声と虫の音が聞こえないことにホームシックになってしまって。「里山」ということを強く意識したことはなかったのですが、無意識のうちに自分のベースになっているというか、やはり好きなのだと思います。

作家の“多様さ”と“柔らかさ”

-金沢里山工房交流会に入って、受けた影響はありますか。

吉岡:やはりいろんな工芸素材の方がいるので、そこからヒントを得ることが結構ありますね。例えば、漆器に「陶胎漆器」という、陶磁器素材の上に施したものが昔からあるのですが、これを現代の塗料で再現したらどうだろう、など。器の制作に思わぬ閃きを与えてもらっています。

齊藤:私は「作家さんの柔らかさ」に影響を受けましたね。元々職人の世界でやっていたので、美の基準というか「こうでなければいけない」という考えに私自身が囚われてしまっていた部分があるんですね。けれど、この会で作家さんに出会って、皆さん本当に自由で。作家としてベテランの権威ある方々の作品もとっても斬新なんです。
もちろん職人仕事ならではの素晴らしさというものもありますが、作家さんの「柔らかさ」は私が求めていたものだったんですね。

齊藤:個人の作品として小物を作り出した当初は「変わったもの/人と違うものを作らないといけない」と肩肘張っていた時期があったんです。それが、今はだんだんと自然になってきているのを感じています。それはやはり金沢里山交流工房会と出会って、いろんな作家さんの作品を見ているからだと思うんですね。
「同じ木彫のものより、全く違うジャンルの作品を見た方が勉強になることもあるよ」と昔言われたことがあって、当時は「直接的に作品に活かせないのになぜだろうと」と思っていたのですが、このことかと。思いもよらない新しい発想が生まれてくるし、自分の頭も柔らかくなっているのを感じます。

-それでは、お二人自身の作品制作についてお聞かせください。

吉岡:「素材感」や「焼き方」をテーマにするということがこれまで多くて、自分としては「金沢九谷」と「加賀唐津」という大きく二つのテーマがあります。特にここ5、6年は金沢九谷の方で「太陽と月」をテーマとした制作に取り組んでいます。太陽と月を一つの器の中で表現して宇宙観を表現したい。工芸から脱皮して、アートに近づく作品に今は取り組んでいます。

-磁器物と土物。どちらもされている作家さんは珍しいですよね。

吉岡:自分の中では「どっちか」という両極の感覚ではなくて、料理人が「魚も使えば肉も使う」という風に食材を選ぶ感覚に近いかもしれません。「この素材ならこう焼く」という。
「焼けるものは何でも焼きたい」という衝動が僕にはありまして。地球って、マグマで一旦ドロドロに溶けたものが地表で固まっている。それがどんどん風化して、微生物が分解して、栄養価の高い土になったりしているわけで、基本的に土石類は「一回焼かれている」わけです。そういう意味では何を焼いても面白いものになる可能性を秘めているんですよね。

吉岡さんの作品。様々な素材、焼き方への飽くなき探究心が宿る

齊藤:すごい、壮大なロマンがありますね。大地と生きているというか。

吉岡:そうですね。自然物が一番のお手本というか。やはり自然よりも美しいものを人間は作れないですよね。

-齊藤さんもモチーフとして、自然をテーマにされている部分がありますか。

齊藤:私は、仏壇彫刻を通して習得した木彫の技術で小物を制作しているのですが、モチーフとしては土偶などを作るのが好きですね。自然というか、神秘的なものに惹かれるというか…。あぁ、そういう意味では“里山”ともここで結びつきますね。自然をモチーフにしているとは、自分でもあまり意識してなかったです。

吉岡:土もそうですが、木も自然物ですもんね。

齊藤:そうですね。木も面白いですよ。同じ一本の木でも、部位によって色や硬さも違いますし。根の方は硬くて色も濃い、反対に上の方は色が浅くて柔らかいんです。

齊藤さんの作品。木彫の技術を生かした細やかな細工

“金沢の里山の感性”を感じてほしい

-今後の「金沢里山工房交流会」としてどのように活動されていきたいですか。

吉岡:金沢だけでなく、都市部やいろんなところで展示会ができるといいなと思いますね。

齊藤:私も同感です。金沢の里山でこういった活動があるということを、もっと知っていただきたいですね。日本全国に里山はありますが、その土地その土地によってやはり感性も違います。だから“金沢の里山の感性”というものを、感じていただけたら良いのかなと。

吉岡:仏壇の木彫技術の高さは、海外でも驚かれるんじゃないかな。海外進出、という展開も面白いかもしれません。

-8月16日から展覧会がスタートします。皆様にメッセージがあれば是非。

吉岡:ここ数年は「金沢里山のKOGEI」を展覧会の名前にしています。やはり会の根っこにあるのは、里山ののびのびとした空気感やあたたかさというか。それは個々の作家さんが性格的に持っているものだと思います。それが作品を通して見ている方にも伝わるといいなと思いますね。

(取材:2023年7月/協力:金沢市三谷さとやま交流広場)

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吉岡正義 Masayoshi Yoshioka
1971年 金沢市生まれ。石川県立工業高等学校工芸科在学中に、同校収蔵の「板谷波山 ざくろ文葆光彩磁」に感動し、陶芸に興味を持つ。その後、石川県立九谷焼技術研修所を卒業後、金沢市内の陶芸工房で修行する。
1995年、金沢市福畠町にて作陶を開始。粘土、釉薬、焼成の研究を重ねながら、1999年に穴窯を築窯。
2003年、金沢市入江に工房を移し「陶庵」を開設。粘土、釉薬、焼成の研究を続けながら新しい金沢九谷を作ると共に、国内外で日本の伝統工芸を広める傍ら、金沢、東京など各地でのワークショップを監修する。
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齊藤美知代 Michiyo Saito
1975年 金沢市生まれ。1995年金沢仏壇、箔彫師(金箔を施した部分の彫刻)の父に弟子入り。彫刻の技術を活かして、小物なども制作。
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