インタビューvol.4
五十嵐桃子さん、由良薫子さん、寺澤季恵さん

インタビュー

2022.10.19

「つくること」に没頭できる場所を求めて

今年も12月9日からの三日間、国内で唯一「工芸」に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair 2022」がハイアットセントリック金沢にて開催されます。今回はギャラリー「銀座の金沢」からの選定作家の中から、金沢卯辰山工芸工房の現役研修者である3名の作家さんにお話をうかがってきました。同世代であり「作家になる」ことを心に決めて金沢にやってきた彼女たち。どんなことを考え、日々制作に向き合っているのでしょうか。

左から寺澤季恵さん、由良薫子さん、五十嵐桃子さん

記憶、存在、生命感 ー 作品に宿るもの

ー今日は作品もお持ちいただいておりますが、制作テーマについてまずお聞かせいただけますか。

五十嵐:私は全体的に「景色」をテーマにして制作しています。それは空の色だったり、海だったり、光だったりー…。日々を過ごす中で感じる、記録に残せない空気感や温度、そういった「瞬間」を保存したいと思い、形状としては「箱」や「容器」の形をしたものを制作しています。そして、それは見る人にとっての記憶も想起させるようなものになればと思っています。

五十嵐桃子さん
《 one day 》五十嵐桃子 w73×d73×h65 mm

由良:私は「何かいるかもしれない」をテーマにしています。制作方法としては、陶器に釉薬をランダムに流しかけ、自然にできた釉薬の模様から、生き物や妖怪を探し出して絵付けをする、というやり方をしています。なので、「何を描くか」ということは、事前には考えていないんです。描かなかったらそこには「いない」けれど、描いたら「いる」。そういう「いる/いない」の間で想像を広げていけたらと思っています。

由良薫子さん
《熔怪茶碗「蒼滝」》由良薫子 Φ126×h98 mm

寺澤:私は大きくは「生命感/生命力」といったものをテーマに据えていて、主な技法としては「吹きガラス」を用いています。溶けたガラスというのは、どこか“生き物”のようだと思っていて。そこに息を吹き込む中で感じる“内側からのエネルギー”のようなものを「果実」や「植物」に重ねて制作しています。

寺澤季恵さん
《生まれかわり》寺澤季恵 H330 × D230 × W250mm

作家として飛び立つための“助走期間”

ー3人とも現在「金沢卯辰山工芸工房」の研修者でいらっしゃいます。こちらに来た理由というのは何だったのでしょう?

五十嵐:卯辰山工芸工房にくる前は美大で助教をしていたのですが、通常業務もある中で自身の制作にあてられる時間はどうしても限られて。一度立ち止まって「つくること」に集中したい、そう思ってそれができる場所を探しているときに、金沢卯辰山工芸工房のことを知りました。

卯辰山工芸工房から眺める金沢の景色

寺澤:私は美大を卒業した後に、富山市立富山ガラス造形研究所を経てこちらに入所しています。私の作品はアートピースのようなものも多いので、「作家として作風を固める」というか「作家としてやっていく力」をつけたいと考えていました。富山での続きをやりたいというか、「もっとガラスを研究したい」とこちらに入らせていただきました。

由良:私も同じで、美大を出た後に多治見市陶磁器意匠研究所で学んでいたのですが、先輩方にも卯辰山工芸工房に入所されている方がいると知って。「作家になるための助走期間」というか、もっと「制作だけに向き合う」ことの必要性を感じていたんです。多治見では学費を払うためにバイトもしていましたが、ここでは設備も使わせてもらえる上に「制作に専念できる」というのが、本当にありがたかったですね。

互いに磨き合う若き才能

ー実際に金沢卯辰山工芸工房に来られていかがでしたか?

五十嵐:本当に恵まれた環境だと思っています。そして「作家になる」と本気で思っている人たちが集まっているので、話しているだけでも刺激を受けるし、日々勉強になりますね。

寺澤:「他の素材に触れようと思ったら触れられる」という点も、卯辰山工芸工房の利点だと思います。例えば、私は作品の一部に金属を使用することもあるのですが、こちらには金工を専門にする方もいますので、技術を勉強させてもらったりしています。

ー確かに、異素材との出会いで作風に思わぬ広がりが生まれそうですね。

由良:この環境で受けた刺激は大なり小なり必ず作品に生きていると思いますね。ずっと一人で制作していたら全然違うものを作っていたんじゃないかと思います。
思い返せば「釉薬を流して、そこに妖怪を探す」という現在の作風も、北陸に来てから始めたもので。作風がよりおどろおどろしくなったというか…ずっと太平洋側に住んでいた自分には衝撃的だった“金沢の冬”も、深層心理には関係しているのかもしれません(笑)。

寺澤:確かに、私の作風も北陸に来てからかなり変わりましたね。大学時代は大型の作品ばかり制作していたのですが、北陸の自然に触れてから、自分の中でのテーマが「生命力」のようなものに移っていって。

五十嵐:私は新潟県出身なので、「曇り空」とか、グレイッシュな空気感は金沢と通じるところがあって。心象風景というのか、私の作品の質感にもそれらは表れているのかもしれません。

KOGEI ? ART ? その境界で。

ー12月にはハイアットホテルで「KOGEI Art Fair 2022」が開催されます。どんなことを期待されていますか。

五十嵐:もともと私は自分の作品が置かれる場所として「住空間」を想定しているので、家具やインテリアがある場所に置いていただけるのは勉強になるなと、個人的には思っています。

寺澤:私もいつもはいわゆる“ホワイトキューブ”で展示しているので、ホテルという環境で飾っていただけるのは楽しみですね。あと、「アートフェア」と名の付くイベントで出品するのも初めてなので、自分の作品が観る人には「どう映るのか」にも興味があります。

由良:私は今回「根付(ねつけ)」を出品しようと思っていて。大学時代に根付に出会ってから「これだ!」と感じて細々制作を続けているのですが、根付は市場規模が小さいこともあって、私が制作しているということもあまり知られていないので。ぜひ今回知っていただける機会になれば嬉しいです。

使う人に、決めてもらいたい。

ー確かに、今回は「KOGEI」と「ART」が並列に並んだイベントで、様々な視点の方の目に触れることになると思います。ちなみに、皆さんにとっての「工芸」ってどんなものでしょう?

五十嵐:それは私もずっと考えています。漢字の「工芸」と、ローマ字の「KOGEI」、そして「クラフト」…。この違いについてもよく議論したりもしますが、未だにわからないですね。

由良:私も「工芸って何だろう」って思いながら作っています。カテゴライズはわざわざ自分でしなくとも、見た人や使う人が決めてくれたらいいのかなと。

寺澤:私の作品は「工芸なのか/アートなのか」と言われることもあります。「素材を起点として作っている」という意味では工芸なのだと思うけれど、自分としてはその境目は関係ないというか、同じようにアートピースと同じようにみていただけたらと思っています。

ー逆に、工芸に対するリスペクトのようなものはありますか?

寺澤:作家としては「自分の考えているもの」を作品で実現したいわけですが、目の前の素材はこちらの思うようにはなってくれないわけで。そういう「現象」と、頭の中の「意識」を行き来することで、作者の意図を超える「生」が生まれるというか、そういうところが工芸にはあると思っています。

由良:私のつくる根付も器も、「用」のある「使えるもの」です。「使えるものとしての縛り」が、表現にとって良い方向に働いているというか、それを意識することで「調和するかっこよさ」というのがあるのが、工芸の魅力だと感じています。

五十嵐:私は「量産」や「プロダクトデザイン」も、今後の視野には入れています。現在どこに自分が属するのかはわからないけれど、今度のイベントでどう見られるか、気になるところであり、楽しみでもありますね。

(取材:2022年9月/協力:金沢卯辰山工芸工房)

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五十嵐桃子 Momoko Ikarashi
新潟県出身。2016年に武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科ガラス専攻卒業。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科助手、2020年から武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科助教を経て、2021年より金沢卯辰山工芸工房技術研修者。

由良薫子 Kaoruko Yura
兵庫県出身。2015年に武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。多治見市陶磁器意匠研究所・技術コース卒業後、2019年に金沢卯辰山工芸工房 陶芸工房に入所。現在、金沢卯辰山工芸工房にて制作中。

寺澤季恵 Kie Terasawa
静岡県出身。2020年に多摩美術大学美術学部工芸学科 卒業。その後2022年に富山市立富山ガラス造形研究所研究科を卒業し、金沢卯辰山工芸工房 在籍。

KOGEI Art Fair Kanazawa 2022
HP
https://kogei-artfair.jp/
Instagram
https://www.instagram.com/kogeiartfairkanazawa/

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