インタビューvol.31_比嘉文音さん(陶芸作家)

インタビュー

2025.11.19

「布」を「陶」に置き換える技法。「自身」を「着ぐるみ」に投影する作品。

【目次】
「好きだけど、優れてはいない」ジレンマの中で
布を含浸して焼成する技法に“惹かれすぎて”
文献にない技法。ひたすら「実験」を繰り返して
「土」と「心」が共鳴する部分
「布」という安心感を与えてくれる素材
臆病だけれど、聞き耳は立てている「うさぎ」
「作品」に昇華するために、“言語化”する必要性
言語化することで生まれてきた “新たな作風”
沖縄から金沢へ。環境の変化
「見てもらえるチャンス」がある“有り難さ”
「いろんな人の、話が聞きたい」

2025年11月28日(金)〜11月30日(日)の三日間にわたり、ハイアットセントリック金沢にて開催される「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」。“国内唯一の工芸に特化したアートフェア”として2017年に始まって以来、今年で9回目の開催を迎えます。
今回は「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」から同フェアに出展する作家のお一人、比嘉文音さんへのインタビューです。比嘉さんは沖縄県出身。金沢美術工芸大学大学院に入学するため、2025年4月に金沢に移住してきたばかりです。「自身の内面を投影している、分身のような存在」と比嘉さんが語る人形型の作品は、一見すると柔らかそうなテクスチャーながら、実は硬い陶磁で作られています。インタビューではこの技法との出会いや金沢にやってくるまでの道程、「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」への意気込みなどをうかがってきました。

比嘉文音さん。現在研究生として在籍中の金沢美術工芸大学のキャンパスにて
比嘉さんの作品/《真髄》2023年

「好きだけど、優れてはいない」ジレンマの中で

ーー比嘉さんは沖縄県立芸術大学修士課程修了後に金沢美術工芸大学に研究生として入学されますが、そもそも「陶芸」を志されたきっかけからお聞かせいただけますか?

比嘉:はい。元々絵を描くことが好きで、沖縄の美術系の高校に進学しました。けれどそういった環境に身を置くと「すごい人っていっぱいいるんだな」ということを思い知らされて。高校でも絵を描いていましたが「好きだけれど、優れているわけではない」というジレンマがずっと自分の中にありました。
大学進学を控えて「私は何がやりたいのか」と改めて考えた時、授業で体験した「陶芸」のことが浮かんだんです。「土っておもしろいなぁ」という感覚があり「使えるもの」としての器にも興味がありました。自分の中で一つ区切りをつける意味でも、大学では「工芸科」を専攻しました。

沖縄県立芸術大学の工芸科には「陶/染/織/漆」四つの専攻があって、2年生の前期まではそれらをまんべんなく学びます。そして2年生の後期から専攻を絞り、そこから集中的に陶芸を学びました。

けれどまさか自分がここまで「陶芸」を続けるとは思ってもいなかったんです。自分は美術に秀でているわけではないから、大学4年間学ばせてもらったら、もう美術は「趣味」に戻してもいいのかもしれない。当初はそう考えていました。

まずボディを粘土で制作し、その上に泥漿を含浸した布を貼っていく

布を含浸して焼成する技法に“惹かれすぎて”

ーーところが結果的に、同大学の大学院にも進学し、現在金沢美術工芸大学の研究生としてさらに学びを深められるに至ったのはどういった心境の変化だったのでしょう?

比嘉:現在の技法に出会って、もう“惹かれ過ぎた”ということに尽きると思います。

ーーそれはこれまでの「着ぐるみ」型の作品で一貫して用いられている技法のことですね。こちらについて教えていただけますか?

比嘉:はい。この技法は大学3年生後期から用いています。ちょうど自由制作が始まり「何が作りたいのか」が問われるタイミングで、私は「布」の質感や造形に惹かれていることに気がついて。そこで先生に「布の質感を陶で表現する」にはどうしたらいいかご相談したところ、泥漿(でいしょう)(※)に布地を浸して吸着させ、それを焼成することで陶の部分だけを残す、という技法を教えていただいたいんです。そこから私の技法研究が始まりました。

※泥漿…粘土と水を混ぜ合わせ泥のような液体状にしたもの。

素材は「陶/磁土/顔料/長石」。どこにも繊維系の素材がないのは焼成の過程で消えているから

文献にない技法。ひたすら「実験」を繰り返して

ーーなるほど、布地自体は焼かれてなくなって「布のテクスチャー」だけが「陶」として残るということですね。ちなみにこの技法は伝統的なものなのでしょうか。技法名などはありますか?

比嘉:私たちは「含浸(がんしん)する」と動作としては呼んではいますが、技法名などは特にないと思います。この技法自体は様々な場所で使われていて、瀬戸のノベルティとして有名な“レースドール”などもこの技法を用いて製造されているものです。

とはいえ、陶芸の中ではニッチな技法なので、方法論として確立されているわけでもなければ、文献にもほとんど残っていないんです。なので自分自身で探究していく他に道がありませんでした。
ひたすら色々な布を浸しては焼いて、粘土も変えながら試してみたり、釉薬を入れたらどうなるだろうとテストを繰り返してー‥。質感や強度なども確認しながら可能性がありそうと思ったものを実験してみる、その繰り返しでした。

「土」と「心」が共鳴する部分

ーーなるほど、誰かに師事する「修行」というよりも、自分で試して「実験」する中で開拓されてきたのですね。どうしてそこまでこの技法に惹かれたとお考えですか?

比嘉:そもそもの「土のポテンシャル」というものにすごく惹かれていることが大前提としてあります。土が1200度を超える高温で焼成されることで、もとの「土」とは “別物” になる。その破片は何万年も地球に残る物質へと変化しているという、その不思議さに惹かれて。

そして「布」という“柔らかな素材”が「陶」という“硬い素材”に置き換わることのおもしろさというか。一見すると柔らかそうに見えますが、陶でできているので衝撃を与えたら簡単に壊れてしまいます。それはどこか「心」にも通ずるところがあるのではないかと。“土と心が共鳴している”というか、リンクする部分が自分の中で何か引っかかり、それ自体が「私がものをつくる動機」にもなっています。

視覚的な柔らかさとは相反する、ザラりと硬い質感とのギャップ
金沢美術工芸大学陶磁制作室の窯

「布」という安心感を与えてくれる素材

ーー「ぬいぐるみ」をモチーフとした作品を大学時代から一貫して制作されていますが、比嘉さんにとってぬいぐるみとはどういった存在なのでしょう?

比嘉:ぬいぐるみは昔から大好きで、家では常にぬいぐるみに囲まれて生活しています。こちらに引っ越してくる時にも、沖縄からたくさんのぬいぐるみを連れてきました(笑)。
なんというか、やっぱり“安心感”があるというか、あの“包まれる感覚”は他では得難いものがあって。ぬいぐるみの形をしているということも大事ですが、「布」という素材自体 “人の肌” にとても近い素材であって、安心感を与えてくれるなと。

ーー確かに。小さい子ども達は、お気に入りのタオルケットを肌身離さず持っていたりしますよね。安心感の“拠り所”になっているというか。

比嘉さんが含浸する素材として現在用いている、ふわふわと柔らかな布地

臆病だけれど、聞き耳は立てている「うさぎ」

ーーちなみに「着ぐるみ」とはいえ、モチーフが「クマ」や「ネコ」ではなく、全て「うさぎ」なのは何か理由があるのでしょうか?

比嘉:このシリーズは「自分を守るもの」として「着ぐるみ」を着ている状態を表現しています。わかりやすいものに擬態するというのが「人に分かってもらう」上で大事なのだなと。うさぎは警戒心が強い動物ですが、聞き耳はピンと立てている。つまり臆病だけれど「人の話は聞きたい」という欲望があって、それは私自身にぴったりと重なるなと。なので今のところ他の動物では考えていないんです。

ーーそういわれると、作品と比嘉さんがすごく似ているように見えてきました…!

比嘉:似てますかね(笑)?でも確かに私にとっては“自分の分身”というか“きょうだい”のような存在で、その時の自分の感情を投影する想いで制作しています。

「作品」に昇華するために、“言語化”する必要性

ーー 沖縄県立芸術大学大学院の院生として2年間技法を深められた後、さらに金沢美術工芸大学で「研究」をしようと決断された理由をお聞かせいただだけますか?

比嘉:はい。これまでは「技法のおもしろさ」に導かれて進んできましたが、ここから「作品」へと昇華していくためには、やはり“自分自身”とちゃんと向き合わないといけないなと。その上で、「言語化」するという作業がどうしても必要だと感じ、博士課程に進んで「論文を書く」ということにしっかり取り組みたいと考えました。
沖縄県立芸術大学の大学院の先生から、金沢美術工芸大学には含浸の技法を用いている宮永先生がいらっしゃることを聞き、そして「金沢」という工芸が盛んな土地へ出ていって、自分を高める必要があると思いました。

ーー論文に挑戦することで、言語化に取り組もうとされたのですね。まだ入学されて半年ですが、いかがですか。

比嘉:論文では「技法」というよりも、自分自身の「心象」というか「内面性」を作品にどう投影するかということに取り組んでいます。実際に書いてみることで「一周回って、原点に戻ってきた」感覚があるんです。私は「自分自身を守るもの」として着ぐるみを着た姿を作ってきましたが、じゃあ「それはなぜなのか」という部分に今行き当たっています。

着ぐるみの姿は、私自身の内向的な部分であり「傷つきたくない」という想いの現れです。けれどそれは同時に「(相手を)傷つけたくない」ということでもあるなと。
作品のうさぎたちは目を閉じていて、口はない。けれど聞き耳は立てています。言葉は人を傷つけるものでもあるので、この作品は「私はあなたを傷つけません」という意志表示でもあったんだなと、書くことで改めて気がついたんです。そして「なぜ」私はそれを“表現”しているのかと問われたら、やっぱり「人と繋がりたい」からなんだなぁと。

言語化することで生まれてきた “新たな作風”

比嘉:このことを言葉にする中で気づいたことで、作品も少しずつ変化していきました。これは最近つくった平面作品なんですが、うさぎの「着ぐるみ」がさらに「服」を着ています。つまり着ぐるみを別の素材で“覆い纏う”ことに挑戦していて。
「ファッション」は自己表現の一つであり、アイデンティティの象徴でもあります。このシリーズはまだ始めたばかりで上手く言語化はできていないのですが、手を動かしながら考えていくことで、新しい何かが掴めるような予感がしています。

ーー確かにこれまでの「着ぐるみ」のシリーズからは、何か“飛躍”がある感じがしますよね。紙のように見えるこの薄い部分や“ほつれた糸”までも、全て「陶」でできている。子どもが描いた絵のようなある種の“稚拙さ”と技巧の“繊細さ”のアンバランスが絶妙です。これも「書くこと」に挑んだからこそ生まれた作品、ということですね。

比嘉:はい。書いたからこそ今がある、と思っています。今の私にとっては、言語化して理解を深めることが一番重要な過程だと感じています。

比嘉さんの新作《I’m here》(2025年)。「絵本のような、子どもの頃の記憶を大切にしながら制作しました」

沖縄から金沢へ。環境の変化

ーー沖縄から金沢にこられて、いろんな意味で「環境」も変化したと思います。

比嘉:まだ10月下旬ですが急に寒くなって、沖縄の「一年で一番寒い日」に該当するぐらい寒いです。今週もう「こたつ」を出すと決めました(笑)。制作する際も粘土が冷たくてびっくりしてます。

ーー北陸の寒さは、まだまだこれからです(笑)。気候的な変化はもちろん大きいですが「金沢美術工芸大学」という環境はいかがですか?

比嘉:みなさん「自分の考え」をしっかり持っていらっしゃるという印象を受けました。「理論的につくっている」というか「言語化」が上手だなと。あと、いろんな工芸のジャンルが集まっていて、海外からの留学生も多く、皆さんやる気に満ち溢れているので日々刺激を受けています。

ーー「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」も11月28日から始まります。「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」の出展作家は、昨年同様公募で選ばれました。今回挑戦しようと思われたきっかけを教えていただけますか?

比嘉:金沢クラフトビジネス創造機構さんで実施された「作家インタビュー(※)」は、アートフェアだけではなく企画展出展の工芸作家セレクションに向けたインタビューだったかと思います。まだ金沢に来て間もない時で「何かチャンスがないかな」「お話だけでも聞いてみたい」という気持ちでうかがっていたので、まさか私が「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」の出展作家に選んでいただけるとは夢にも思っていませんでした。なので、今は心配と緊張が半々な気持ちです(笑)。

(※)…金沢クラフトビジネス創造機構がディレクションを行うアートフェアや企画展への参加作家を募集する際に行っている個人面談。2024年度、2025年度実施。

見てもらえるチャンス」がある“有り難さ”

ーー金沢クラフトビジネス創造機構が公募のアートフェア、企画展出展の工芸作家を決めるためにインタビュー形式を採用しているのは「自らチャンスに挑戦するモチベーションある作家さんを応援したい」という想いもあります。比嘉さんは大学の頃から公募展に積極的に出品され続けていますが、若手作家の“公募展離れ”ともいわれる中で、続けてこられた理由などはありますか?

比嘉:沖縄にいると「公募展」しか「見てもらえるチャンス」がないんです。沖縄で個展を開いても、本州のギャラリーの方々が見にこられるわけではないですし、沖縄ではなかなか作家が日の目を見ないという現状があります。

だからこそ、金沢に来て「見てもらえる選択肢」が色々とあることがすごく新鮮であり、同時にとても有難くて。なので今は公募展に限らず「いろんな場所」で「いろんな人」に見てもらいたいという気持ちがどんどん強くなっています。

「いろんな人の、話が聞きたい」

ーー「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」が比嘉さんにとって初の「アートフェア」への参加であり、「金沢初の展示」にもなるわけですね。どういうお気持ちで臨まれますか?

比嘉:「どんな風に見られるのか」「どう感じられるのか」という意味で、自分にとってすごく勉強させていただける場になると感じています。なのでアートフェア期間中はできる限り在廊して、いろんな方からお話をうかがえたらと思っています。

ーーアートフェアは、「欲しいかどうか」が一つの判断基準になるので、これまで挑戦されてきた「公募展」とはまた違う視点ですよね。比嘉さんとしては作品をどんな場所においてほしいなど思いはありますか?

比嘉:そうですね。毎日目に入るような場所においていただけるとよいのかなと。できればリビングなど“人の気配”や“温かみ”が感じられるような空間に。そして日常の中でふとした瞬間に「目が合う」というか、そんな存在として置いていただけると嬉しいです。

(取材:2025年10月)

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<Profile>
比嘉文音 HIGA Ayane

2000年 沖縄県那覇市出身。2023年 沖縄県立芸術大学工芸専攻卒業。2025年 沖縄県立芸術大学大学院工芸専攻修了。2025年 金沢美術工芸大学研究生として在学中。2023年 日本陶磁協会現代陶芸奨励賞 九州沖縄展 入選。2023年 第11回陶美展 奨励賞。

Instagram:https://www.instagram.com/ayaneeeees/

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