インタビューvol.33_新城すみれさん(染色作家)

インタビュー

2026.02.24

他者を通して知る、自分の“色”
重なり合う「ろうけつ染め」と「版画」

【目次】
・自分の中で“制約”を作ってはいないか? 
・美大受験に向けて、ゼロからのスタート 
・「新城は“色”が良い」進路を決めた先生の一言 
・「ろうけつ染め」と「版画」の出会い 
・金沢で受けたカルチャーショック
 “自分のポジション”に迷った時期
 
・日常のふとした瞬間の“美しさ”や
 ささやかな“おかしみ”を切り取って
 
・工芸が暮らしに根付く街、作家にやさしい街 
・多様なコミュニティと接点を持って
 いろんな“声”を聞いていたい
 
・工芸ディレクターの一言で気付けた“偏り” 
・研修生時代の感覚を、今思い出している 
・花を飾るように、暮らしに“色”を添えられたら 

国内最大級の国際的なアートフェア「ART FAIR TOKYO 」。2026年も3月13日(金)〜15日(日)の3日間、東京国際フォーラムにて開催されます。「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」からは5名の作家が出展予定。今回は出展作家の一人である、新城(しんじょう)すみれさんへのインタビューです。

新城さんは、伝統的な染色技法「ろうけつ染め」と「版画」を組み合わせた、独自の表現で制作を続ける染色作家。明るく伸びやかな「色」と、素朴で力強い「版画」の輪郭線が、温かくユーモアのある世界観を構築しています。この作風に辿りつくまでの転機には、いつも“他者からの気づき”があったと語る新城さん。今回は染色作家になるまでの道のりや、「ART FAIR TOKYO」での新たな挑戦など、お話をうかがってきました。

染色作家・新城(しんじょう)すみれさん
新城さんがスタッフとしても働く「金沢湯涌創作の森」内の「染織工房」にてインタビュー
工房に掛かっていた、新城さん作のタペストリー(講座サンプル)

自分の中で“制約”を作ってはいないか?

ーー今回の「ART FAIR TOKYO」に向けた「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」出展作家も「KOGEI Art Fair Kanazawa」と同様に公募形式で選出されました。応募のきっかけを教えてください。

新城:はい。金沢に来て10年になりますが、ここ最近は個展が中心でした。続けていく中で「売れるサイズ感」や「あのお客様が喜ばれそう」といった感覚も段々分かるようになってきて。個展をさせていただける環境や、いつも来てくださるお客様には本当に感謝しています。

ただ同時に、そこに無意識のうちに適応しようとして「自分自身で“制約”をかけてしまっているのではないか?」と感じるようになったんです。これはちょっとまずいなと。発表の場やテーマを変えることで、成長につながるのではないかと思い、応募しました。

美大受験に向けて、ゼロからのスタート

ーーある意味で“慣れからの脱却”という部分もあるのでしょうか。それでは、まず新城さんのこれまでの道のりから順にお聞かせいただけますか。

新城:私は沖縄の出身で、昔から絵は好きだったんですが、特に何もやってないし上手くもない。高校も普通科でしたし、部活もバスケットボールでバリバリ運動部でした(笑)。
何かしら美術関係の道に進みたい気持ちはあるけれど、全くの「ゼロ」の状態だったので、地元の沖縄県立芸術大学には入れない‥。そこで高校卒業後は、横浜にいる姉を頼って上京し、とりあえずアルバイトをしながら美大受験予備校である「KIKUNAアトリエ」に通い出しました。

「新城は“色”が良い」進路を決めた先生の一言

新城:そこで、人生で初めて“絵の訓練”を受けました。ある時先生が「新城は“色”がいい」とポロッとおっしゃって。「デザインというよりも、色がいいからテキスタイルに向いてるぞ」と。確かに平面構成なども好きではあったのですが、先生に言われて初めて「私って“色”なんだ」と気がついて。

なので染色の道は、自分で選んだというよりは「色が扱えるところにいった方がいい」という先生のアドバイスに背中を押されたかたちでした。

《オオミテーマパーク》2018年 /金沢にある近江町市場の活気を表現した染色作品。(画像提供:新城さん)

ーー大学では武蔵野美術大学の工芸工業デザイン科に入学されていますね。

新城:はい。工芸工業デザイン科でテキスタイルを専攻し、そこで「ろうけつ染め」と出会いました。
ろうけつ染めは、溶かした蝋を筆につけて描きます。布の上で蝋が固まると、染めた時にそこだけ色を弾くので紋様が浮かびあがる。ろうけつ染めは直接布に描けるので、「絵を描く感覚」で染色ができるんです。また。色を重ねることで現れる、特有の“奥行き”や“レイヤー感”も好きで。

「ろうけつ染め」と「版画」の出会い

ーーろうけつ染めに「版画を重ねる」という技法は、新城さんのオリジナルなのでしょうか?

新城:どうなんでしょう…?ただ、他にやっていらっしゃる方を私はまだ存じ上げないです。この技法も、実は先生の何気ない一言から生まれたものなんです。

学生時代、私は筆でスケッチを描いていたんですが、それを見た先生が「染める前のドローイングの方が力があって、作品になるとよくない」とおっしゃって。そして「新城のドローイングのタッチは“版画”のような味があるから、取り入れてみたらどうだろう」と。
そこで、小学生の頃は版画が好きだったことをハッと思い出して。「え!好きなもの同士を合わせてもいいですか!」と(笑)。そこから現在の技法を試みるようになりました。

版画に用いられた木版

ーーちなみに子どもの頃、版画のどんなところに惹かれたのでしょう?

新城:彫る作業自体も楽しかったし、何より版画にすることで「絵が素朴になる」というか「味わいがでる」ことが、子どもながらに好きだったんですよね。

版画と合わせるアドバイスをいただいたのが卒業制作時だったので、「もっとこの技法を探求したい!」と思い、当時教授の鈴木純子先生に教えていただいた「金沢卯辰山工芸工房」を受験しました。

新城さんの卒業制作。ろうけつ染めと版画を初めて合わせた作品(画像提供:新城さん)
別作品の制作工程の様子(画像提供:新城さん)

金沢で受けたカルチャーショック
“自分のポジション”に迷った時期

ーー東京から金沢卯辰山工芸工房に研修生として入所されていかがでしたか?

新城:みんな技術力が高くて、もう面食らいましたね(笑)。東京にいた時は「工芸」をやってる人自体周囲には少なかったのですが、こちらに来たら「染色」の中でも様々な技法の作家さんがいて、漆や金工などその他のジャンルの研修生達もすごく細やかで完成度の高い作品を制作している‥。いつしか「超絶技巧こそが工芸の正解」だと思うようになっていて、この中で「自分のポジションはどこなのだろう」と悩んだ時期もありました。

工芸における「技法」と「表現」の割合でいうと、私は明らかに「表現したい」という欲求の方が強いタイプ。「技法を極める」というよりも、「作りたいものがある」からものづくりをしているわけで、だったらもうそれしかないなと。ちょっとしたユーモアと、素朴さ、親しみやすさー‥私の好きなテイストで、“自分ができる最大限”で頑張ろうと思うようになりました。

日常のふとした瞬間の“美しさ”や
ささやかな“おかしみ”を切り取って

新城:金沢のまちは本当に大好きなんです。街並みも美しくて、四季の移り変わりも鮮やかで「ああ、今この光景を表現したい!」というインスピレーションを日常の中でたくさん受けています。
ご飯やお酒も美味しいし、文化的な活動も盛んで、いろんなところで人と繋がり合えるー‥「生きてて楽しい!」といつも感じています。

《茶道の稽古2021年(画像提供:新城さん)

ーー新城さんの作品のモチーフには「道端のたぬき」や「一服のおやつ」などもあって、実にユニークですよね。どういう目線で選ばれているのですか?

新城:日常の何気ない光景で「綺麗だな」とか「ちょっと面白いな」と思ったもの、自分の中で何かストーリーやフレーズが浮かぶような光景を切り取っている気がします。
あと、東京でも沖縄でも見られなかった「いま・ここならではだな」と感じられるものを選んでいることも多いかもしれません。

《営業日》2025年/「近所の散髪屋の信楽焼たぬきさんが、営業日はいきいきしてる感じを表現しました」(画像提供:新城さん)
《東山のとうもろこし》2025年/金沢の東山界隈に伝わる、年に一度お寺で配られるとうもろこしを飾る風習をテーマに制作。(画像提供:新城さん)

工芸が暮らしに根付く街、作家にやさしい街

ーー金沢卯辰山工芸工房を卒業後も金沢を拠点とされているのには何か理由がありますか?

新城:やはり、工芸が日常に根付いているところでしょうか。金沢にきて、創作和食の飲食店でアルバイトを始めたのですが、そこでは作家ものの器がごく自然に用いられていて、料理長が料理だけでなく、器や作家についても説明するんですね。そこでお客様がその器を所望されたり‥。「作家がいないところで、作家の名前が出て褒められている」という光景を初めて見て、「すごい!本当にこの街では、工芸が息づいているんだ!」と肌で感じましたね。

新城:そして皆さん“作家にやさしい”というか。金沢卯辰山工芸工房の研修生時代に入居した、工房近くのマンションは、オーナーさんが「研修生を応援する」というお気持ちで家賃を安く設定してくださっていて。またアルバイトでも、制作が忙しい時は気遣って休ませてくれたりー‥。

そして制作環境にも恵まれているなと感じます。今働いているこの工房(金沢湯涌創作の森 染織工房)もとても素晴らしい設備で、どなたでも染色を体験できる(予約制)施設なのですが、私も使わせていただいています。
染色は「水」をたくさん使用しますし、布は広げるとすぐに数メートルにもなるので「スペース」も必要です。制作を続けていく上で“環境”はとても大事なので、本当にありがたく感じています。

ろうけつ染めは、蝋の種類も多数。ソーピングワックスを落とすために熱湯を用いる
広大な敷地に、古民家を改修した施設が点在する「金沢湯涌創作の森」

多様なコミュニティと接点を持って
いろんな“声”を聞いていたい

ーーちなみにお忙しい中で、アルバイトは現在も続けてらっしゃるのですか?

新城:はい!ここ(染織工房)と、飲食店を2軒と。もうベテランの域で、皿洗いとか超丁寧で早いです(笑)。

アルバイトは、今後も続けたいなと思っているんです。もちろん“作家一本”という生き方にも憧れはありますが、私の場合どこかで行き詰まりそうで。アルバイトが制作の“気分転換”になっているということもありますが、一番は「いろんなコミュニティと接していたい」という気持ちが大きいかもしれません。
作家仲間のコミュニティだけだと、どうしても偏ってしまうので、なるべくいろんな方の声を「おもしろいなー」と思いながら聞いていたいんです。

工芸ディレクターの一言で気付けた“偏り”

ーー3月の「ART FAIR TOKYO 」ではどのような作品を考えていらっしゃるのですか?

新城:今回のアートフェアでは、久しぶりにちょっと抽象的な要素を取り入れていきたいと思っています。
というのも、アートフェアに向けて作品を相談している時、工芸ディレクターである原嶋さんが「ちょっと具象的だね」とポロッとおっしゃったんですね。その一言に、ハッとして。

新城:これまでの私は「綺麗だな、面白いな」と思った“視覚的”なものに加えて、空想やメッセージといった“概念的”なもの、そして“感情的”なもののバランスを取りながら制作していたはずなのに、いつの間にか「視覚的なもの/具象的なもの」ばかりに偏っていたことに気がついて。

原嶋さんの一言から、視野が狭くなっていたこと、そして環境に甘えていた自分を俯瞰して見ることができたんです。

工芸ディレクターの原嶋亮輔さんと新城さん

研修生時代の感覚を、今思い出している

新城:個展ばかりしていると「客観的な評価」をいただく機会が少なかったんですね。お客様は「好き/嫌い」で判断されますし、もしくは「染色」というカテゴリーの中での評価になる。

原嶋さんは「新城さんの作品には“民藝”っぽっさがあるね」とか「展示方法をあえてスタイリッシュにしてみてはどうか」など、ジャンルも超えた視点からアドバイスをいただけたことで、一つ“抜けられた”という感覚があったんです。

新城:現在アートフェアに向けて抽象と具象のバランスを意識しながら作品制作をしているところなのですが、なんというか“金沢卯辰山工芸工房時代の感覚”を思い出せたんですね。

「自分が持っているものを、この画面にどう詰め込み表現するか」という一点に集中できているというか、「この感覚、研修生の時に感じていたな〜」と。そして、久々にめっちゃ頭を使いました(笑)。

アートフェアに向けて制作中の、「標識」をモチーフに展開する作品
具象的なモチーフだけではなく、紋様や抽象的な表現にも挑戦

花を飾るように、暮らしに“色”を添えられたら

新城:ART FAIR TOKYO では、壁一面に大小様々な作品を展示する予定です。実はアートフェアへの出品はこれが2回目で、金沢卯辰山工芸工房時代にも一度出品させていただいたことがあるんです。
その時は金沢の「近江町市場」をモチーフにした大作一点で勝負したのですが、全然見てもらえず、その後の仕事にもつながらずで、悲しかった思い出しかなくて。今思えばあまりにもテーマが“金沢”に寄りすぎていて、そりゃ県外の方には響きづらいよねと(笑)。

新城:なので今回はリベンジ戦です!新たに挑戦した作品をたくさん並べるので、“世界観”としても表現できるかなと。その中に一つでも、お客様に響くものがあると嬉しいですね。

花を飾るような感覚で、作品も飾っていただけたらと思っています。私も市場などで買った花をよく部屋に飾るのですが、そんな気軽さで、暮らしに“色”を添えていただけたら。

「可愛い!綺麗!面白い!」と私自身が心から思えるものでないと作れないので、購入いただいた方にも楽しい気分になっていただけたらいいなと思っています。

(取材:2026年1月)

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<profile>
新城すみれ|Sumire Shinjo
1991年沖縄県生まれ。2016年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイル専攻卒業。同年石川県金沢卯辰山工芸工房に入所。3年間独自の作品制作に打ち込み、金沢卯辰山工芸工房を修了後、現在も金沢で制作活動中。

Website:https://shinjosumire.jimdofree.com/
Instagram:https://www.instagram.com/shinjosumire/

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