「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」レポート/「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢 」出展作家インタビュー

レポート

2025.12.23

【目次】
“私の中にあるかたち” を介したコミュニケーション
カタチをもつ以前の感覚や記憶の“輪郭”
「チャンスをいただけるなら、全て参加したい」
部屋での「置き方」がイメージできる展示空間
自身が救われた、“繰り返し”の過程を作品化
挑戦し、自身の表現を研ぎ破る
「じっくり話す時間」の、制作における大切さ
“身に染みついた素材”で、日常を切り取る
「金属」でしかできない表現を求めて
探究成果を“完成形”として世に出し続けていくこと
“生命の煌めき”をガラスに鋳込(いこ)む
悠久の素材に、想いを託して
アートフェアは、誰にとっても“楽しい場”
ホテル空間に凝縮された、圧倒的情報量
“作品の未来”を考える目線
同時代を生きる人々とリンクしている感覚

国内で唯一“工芸に特化したアートフェア”として2017年に始まって以来、今年で9回目を迎えた「KOGEI Art Fair Kanazawa」。2025年11月28日〜30日の3日間にわたり「ハイアット セントリック 金沢」を会場に開催されました。(KOGEI Art Fair Kanazawa 2025 公式サイトはこちら
過去最多となる国内外42ギャラリーから、200名以上のアーティストによる2,000点を超える作品が一堂に集結。今回は、ギャラリー「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢(※)」から出展した6名の作家のインタビューと共に、その様子をレポートいたします。

(※「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」は、工芸作家の支援を目的として金沢市が開設し、金沢クラフトビジネス創造機構が運営する東京のギャラリーです)

「ハイアット セントリック 金沢」で開催された「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」
(画像提供:KOGEI Art Fair Kanazawa 2025)

“私の中にあるかたち” を介したコミュニケーション

昨年に引き続き、公募形式で出展作家を募った「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」。「作家インタビュー」としてマンツーマン面談でお話をうかがった作家は30名以上にのぼります。若手作家をはじめ毎年新たな出会いも多く、金沢における“工芸作家の層の厚さ”を改めて感じさせます。
「出展作家の顔ぶれが決定したタイミングで、KOGEI Art Fair Kanazawa 2025に向けたテーマが浮かびました」と語るのは、同ギャラリーのディレクションを担当した原嶋亮輔さん。ギャラリーとしてのテーマは「“私”の中にあるかたち」。

「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」の出展テーマ(「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」HPより)

「作家自身は“作品は作品、私は私”というか、『作品』と『自身』をある程度分けて語る方が多いのですが、お話をうかがいながら作品を拝見していると、表現の背景に自身の経験や記憶、そこから生まれる直感など、作品と作家がかなりリンクしているように僕には感じられました。その認識のズレも興味深いし、ここをもっと深掘りしていけば何かテーマ性も見えてくるのではないかと思いました。(原嶋さん)」

金沢クラフトビジネス創造機構の工芸ディレクター・原嶋亮輔さん

「意識や無意識、記憶や直感からひきだされた心を象ったものの現れは、個人的でありながら普遍的でもあり、国境を越えて静かに響き合う力を持っていると信じています」と、今回のステートメントにも綴られているように、作品を介した深いコミュニケーションも、アートフェアの大きな魅力です。

例年在廊する作家が多く、作家との距離感の近さもKOGEI Art Fair Kanazawaの特徴の一つ。「お客様も作家とのコミュニケーションを楽しんでおられる印象ですね。各部屋の滞留時間も長く、一つ一つの作品をじっくりと見ていらっしゃいました」と原嶋さん。

素材や技法を通して現れる、作家の中にある唯一無二の「かたち」。今年はどんな表現に出会えたのか、早速のぞいていきましょう。

401号室の客室が、「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」のギャラリーに
ベッドが大きな展示台へと変貌していました

カタチをもつ以前の感覚や記憶の“輪郭”

細い棒状に伸ばしたガラスを用いた独特の造形や、ガラスと金属を合わせることによって生まれる色や表情といった“現象”をつかんで作品化しているという森安音仁(おとひと)さん。
「形をもつ前の感覚や記憶‥そういったものの軌跡に触れるというか、“あるようでないもの”の輪郭を求めて制作を続けています」

森安音仁さん。1998年大阪府生まれ。2021年大阪芸術大学工芸学科ガラス工芸コース卒業。2023年富山ガラス造形研究所研究科卒業。現在金沢卯辰山工芸工房に在籍。

今回「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」では、近年展開している作風の“はじまり”となった《雨を編む》シリーズを展開しました。

「“雨の軌跡”を形として留めることはできないかと思いつくり始めたのが《雨を編む》です。ガラス同士を熱でつけるという手法はよく用いられますが、熱を使うと当初の形から変わったり表情が消えてしまうことがあります。そこで、“そのままの姿”を残したまま造形する方法を考え、“編む”という手法に辿り着きました。」

《雨を編む》森安音仁/2025年
金属との変化で生まれる独特なガラスの表情

「チャンスをいただけるなら、全て参加したい」

「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025 」の作家インタビューに参加した理由を尋ねると「むしろ、出さないという手はないと思っていました」と答えた森安さん。「本来なら、僕のような若手はなかなか展示できないような場所です。チャンスをいただけるならば全て参加したいと思って臨んでいます」と語り、制作意欲を滾(たぎ)らせています。

今回の「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025 」では東京のギャラリー「和田画廊」からも出展。アーティストトークにも登壇しました。「体は一つなのでちょっと大変でしたが(笑)、それぞれのギャラリーで表現を分けて展示するという、とても良い経験をさせていただきました」と振り返る森安さん。多面的に展開していく作風が今後益々楽しみです。

《雨を編む-雨暦》森安音仁/2025年

部屋での「置き方」がイメージできる展示空間

「KOGEI Art Fair Kanazawaの会場はホテルなので、作品の“置き方”がわかるというか、ホワイトキューブでの展示よりも“部屋にある姿”をイメージしていただきやすいというのはありがたいですね」と語るのは、艶やかで流線的な造形を作品制作している新美える結(えるむ)さん。目を凝らすと、その表面に施された細やかな加飾が浮かび上がります。

壁掛けタイプの作品が多い新美さん。艶やかな作品が客室を彩っていました

自身が救われた、“繰り返し”の過程を作品化

「漆黒の艶」に惹かれ、金沢美術工芸大学で漆芸を専攻したという新美さん。表現として「漆の艶をあげる」ことを重視し、そのための作業過程も大切にしていると語ります。

「漆は基本的に“研いで塗る、研いで塗る”という作業の繰り返しです。加飾でも繰り返しの紋様を描いていて、“漆の作業自体を可視化”するような気持ちで行っています。
大学で漆に出会った時、この“繰り返しの作業”に私自身が救われました。日常のストレスや過去のトラウマからも解放されて一心に集中できる瞬間‥。瞬きをすることすら忘れてコンタクトが取れたりもします(笑)、本当にそれくらい無心になれるんです。私にとっては瞑想や浄化作業のようなとても大切な時間で、これからも続けるべきだと自分自身感じています」

新美える結さん。2000年愛知県生まれ。2023年⾦沢美術⼯芸⼤学⼯芸科卒業。2025年同大学 美術⼯芸研究科⼯芸専攻 漆・⽊⼯コース修了。現在⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯房に在籍

挑戦し、自身の表現を研ぎ破る

KOGEI Art Fair Kanazawa 2025には、最新作も展示。漆を“研ぎ破る”工程を重ねる中で現れてきた模様に新美さんがさらに加飾を加えた作品です。「“漆がつくってくれた模様”を可視化するイメージで制作しています」と新美さん。
「初めてのチャレンジだったのですが、もう少しやりようがあるのではないかと課題も色々見えてきました。この作品に挑戦したことで、もっとやりたいことが見えてきましたし、自分のスタイルというものも、少し分かったような気がしています」
今回初めてアートフェアに挑戦した新美さん。自身の表現を“研ぎ破り”、これまでにない新たな表情が顔をのぞかせていました。

《Through the Layers》新美える結 2025年
蒔絵などで細やかな加飾が施されている

「じっくり話す時間」の、制作における大切さ

今田莉野生(りのい)さんは、昨年の「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」でも「銀座の金沢」から出展いただいたガラス作家さん。今年度の公募にも参加いただいた理由を尋ねると「作品についてじっくりお話をうかがえる機会だったので」と語る今田さん。
「誰かと作品について話をして、そのリアクションをしっかりと聞くということを最近は重視しています。卯辰山工芸工房でも“個人ミーティング”といって専門員さんとお話する時間を設けていただけるのですが、自分の制作にとって大事な時間だなと気づきがあって。なので今回も、原嶋さんとお話したいなと思い応募しました」

今田莉野生さん。高校卒業後アメリカに渡り、その後も海外を拠点に活動。現在は金沢卯辰山工芸工房 研修生。

コミュニケーションを介して得られる視点を大切にしている今田さん。「アートフェアも2回目になり、やっと少しは落ち着いてお客様の対応ができるようになってきました」と晴れやかな笑顔。KOGEI Art Fair Kanazawaからのつながりも少しずつ広がっています。

作品の一つ一つをじっくりと鑑賞する来場者。
作家同士のコミュニケーションもKOGEI Art Fair Kanazawaの醍醐味

“身に染みついた素材”で、日常を切り取る

「金沢にきてから“ガラスの役目”というものを改めて考えるようになった」と昨年のインタビューでも語っていた今田さん。ガラスを“思考のうつわ”と位置付け「言葉」をテーマとして展開される作風は、一年の間でも変化や飛躍が感じられました。その軌跡を追っていくのも作家との距離感が近いアートフェアの楽しみの一つです。

昨年も展示された“つぶやき”が内包されたガラスの吹き出しの展開系のような作品も。

今年新たに展示されていた《Trace》シリーズ。破り捨てられたノートのような造形が、ガラスで見事に表現されています。
「私にとってガラスは、もう長い間付き合ってきて、もはや“身に染み付いている素材”という感覚なんです。自分の日常の一部として、ガラスが変化する様子などを捉えているので、“自分の生の気持ち”を写しとるには、やはりガラスしかないと感じています」と語る今田さん。自身と素材が一体となり、日記を綴るような自然なルーティンの中で作品が生まれていきます。

《Trace II》今田莉野生/2025年

「金属」でしかできない表現を求めて

冷たい艶を放ちながら、ぬめりと壁を這うナメクジ‥。「金属でしかできない表現を意識している」と語るのは金工作家の和田資生(もとき)さん。「ナメクジ」をモチーフとした《ペトリコール》は、金属の質感や展延性(※)を上手く表現できる題材として制作し続けているシリーズです。

(※)展延性…金属が力を加えても破壊されずに変形する性質のこと。展性(圧力で薄く広がる)と延性(引っ張ると細く伸びる)の2つに分けられる。

《ペトリコール》和田資生/2025年

異なる金属が融合する独特な表情は、「杢目金(もくめがね)※」と呼ばれる、かつては日本刀の鍔制作などにも用いられていた伝統技法によって生み出されています。「“金属を自在に操る感覚”を最も感じられる瞬間が杢目金の制作過程にはあって、その魅力に取り憑かれて制作を続けています」と和田さんは語ります。

(※)杢目金…金・銀・銅など色の異なる金属を何層にも重ねて熱圧着し、彫金や鍛金技術を駆使して木目のような模様を浮かび上がらせる日本の伝統的な金属工芸技術。

和田資生さん。金沢卯辰山工芸工房研修生。異なる金属を重ねて接合し、木目調の模様を作る「杢目金」を中心に作品制作を行う。
どこか奇妙な気配が漂う紋様がナメクジの存在感を際立てる

探究成果を“完成形”として世に出し続けていくこと

今回の公募に参加した動機を尋ねると「自分がこれまで繰り返してきた実験や探求を、一旦の“完成形”として皆さんに見ていただきたかった、という想いが強いです」と話す和田さん。「普段は制作ばかりしていて、なかなか“表に出る機会”というのは少ないのですが、たくさんの方に見ていただいて、ご意見をいただくことの重要性を今回改めて感じています」。

その時点での“完成形”を世に出し続け、世間の評価に晒すこと。表現を探求していくうえでも、この繰り返しが“鍛錬”の近道なのかもしれません。

“生命の煌めき”をガラスに鋳込(いこ)む

鋳造の技法を用いてガラスの作品を制作する大塚麻由さん。「私が行っている鋳造の技法は“ガラスの内側に光を閉じ込める”ような性質があります。それは私がいつも表現したいと思っている”生命が持つ煌めき”とも重なるところがある。生命の煌めきとは目には見えないものですが、ガラスという素材ならば“目にみえる形”として表現できるのではないかと考えています」

大塚麻由さん。東京都出身。2007女子美術大学芸術学部工芸学科ガラスコース卒業。2011年から金沢を拠点に制作活動を行う。現在「atelier Mtor(アトリエ エムトア)」主宰。
光を内包し、内側からほのかに発光しているようにも見える大塚さんの作品。

悠久の素材に、想いを託して

普段は動植物を主なモチーフとしている大塚さんですが、今回は「本」をモチーフとした新たなシリーズもお披露目。
「実物の本は紙でできているので、時間と共に失われていくものです。けれどそこに記されている“思想”や“想い”のようなものが消えてなくなることはありません。ガラスという素材は、“悠久”と呼ぶに近い時間を耐えうることができる素材なので、その“想い”をガラスに閉じ込めるようなイメージで制作しました」

《本の記憶-Garden》大塚麻由/2025年

アートフェアは、誰にとっても“楽しい場”

KOGEI Art Fair Kanazawa 2025に参加した感想をうかがうと「楽しいです」と笑顔で即答してくれた大塚さん。 「今回私が出展作家の中でも一番年上だったので、年長者の私があんまりはしゃぐのもよくないなと思いながらも(笑)、搬入からずっと楽しくて。“アートフェア”という言葉の持つ印象が、もしかしたら一般の方にとっては敷居が高く感じてしまう部分があるのかもしれませんが、どなたでも“まず楽しめる場”だということが、もっと広まるといいなと思いますね」

ホテル空間に凝縮された、圧倒的情報量

「海外からのお客様や、国内外のギャラリーの方、そして地元のお客様‥。ホテルという一つの空間の中に、アーティストや作品、ギャラリーの方にお客様が集結していて、情報量が物凄くて、もう毎日胸いっぱいでした」と語るのは、前回のインタビューでもご紹介した比嘉文音さん。(以前のインタビューはこちら

今回が比嘉さんにとって金沢初の展示。「地域のお客様もたくさんご来場いただいたのですが、みなさん日常的に工芸に触れていらっしゃるからか、元々工芸の知識をお持ちの方が多く驚きました」

比嘉文音さん。「いろんな作家さんの多様な表現にも触れられて、これまでにない鑑賞体験となり、自分の作品を改めて考えるきっかけにもなりました」

“作品の未来”を考える目線

また「アートフェア」としても今回が初参加だったそう。「これまでの展示では作品に対して“良い/悪い”といった評価でしたが、今回は『部屋に置いたらどうなるだろう』など、“作品の未来”を考えてくださるお客様の目線が新鮮でした。また自然光の中で作品を飾ったことがこれまでなかったので、朝と夜で見え方が全く変わるということも発見で。実際購入いただいた後はそういった環境に置かれることになるので、新たな目線も獲得することができた機会でした。(比嘉さん)」

ライトアップされたホワイトキューブとは、また違う表情を見せる作品

同時代を生きる人々とリンクしている感覚

比嘉さんが学生時代から制作し続けているモチーフである“ぬいぐるみ”。今年は「ぬい活(※)」という言葉が流行語大賞にノミネートされるなど、改めてぬいぐるみが注目を集めた一年でもありました。

(※)ぬい活…ぬいぐるみを日常的に連れて歩いたり、ぬいぐるみを通じて楽しむ様々な活動のこと。

「“ぬい活”をしている方々は、私と同世代の方が多い印象です。私自身は“今の自分の価値観”で作品をつくっているつもりでしたが、意図せず同時代を生きる人たちとリンクしているんだなぁと改めて実感しました」と振り返る比嘉さん。

《華》比嘉文音/2025年

「工芸という巧みの手をもって、立ち現れる生命感は、現代を生きる私たちに必要な道標になりうるかもしれません」とあった今回のギャラリーテーマ。私たちの想像を超え、唯一無二の姿形として現れる、作家それぞれの“私の中にあるカタチ”は、えもいわれぬ郷愁や新たなインスピレーションを私たちに与えてくれます。

「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」では来年度もアートフェアに向け出展作家を公募する予定です。まだ見ぬ“新たなカタチ”にお目にかかれることを、今から楽しみにしております。

(取材:2025年12月)

記事一覧へ

ほかの記事

OTHER ARTICLES

pagetop