インタビューvol.39_希少伝統産業専門塾
インタビュー
2026.10.01
「弟子をとれない時代」に、希少な技をつなぐ専門塾
【目次】
・後継者不足の危機感から立ち上がった「専門塾」
・木工、竹工芸、加賀竿を学べるのは市内でここだけ
・全国からも羨まれる、整ったサポート体制
・未経験でも、情熱があれば開かれる門
・「弟子を取れない時代」の、技の受け継ぎ方
・年齢を重ねた今だからこそ分かる魅力、挑戦の場
・「習いたい」という、“直感”と“衝動”を肯定してあげたい
・まずは道具の手入れから。「基本のき」から始まる学び
・「何度も何度も」同じことを繰り返す大切さ
・「素材を見抜く目」を養う。手間をかけて「素材に寄り添う」
・「技術」だけじゃなく、背景にある文化や精神性も教え継ぐ
・ものづくりが好きな人、ものを使うのが好きな人
・真面目、謙虚、淡々と努力できる人
・職人を目指す「足がかり」として
2026年10月10日(土)、11日(日)に開催される「KOGEIフェスタ!」にて、「希少伝統産業専門塾交流会展」が開かれます。「希少伝統産業専門塾」は、後継者が少ない伝統工芸の技の継承を目的に、金沢市が1996年から運営している専門の学習機関。現在は「木工」「加賀象嵌・彫金」「竹工芸」「加賀竿」の4つのコースが開講されています。
今回は交流会展を前に、各分野で講師を務める先生方にお集まりいただきました。専門塾が生まれた背景から、そこで受け継がれている技術やものづくりの姿勢、そして交流会展の見どころまで、お話をうかがいました。

(左から本江和直斎さん、橋本紗織さん、前田真知子さん、中村滋さん、角間泰憲さん、福嶋則夫さん)

後継者不足の危機感から立ち上がった「専門塾」
ーー希少伝統産業専門塾(以下:専門塾)は、金沢市が研修費用を支援しながら後継者を育成する、全国的にも珍しい取り組みです。まずは開講の経緯から教えていただけますか。
福嶋:この中では私が一番講師歴が長いですかね。「木工」は専門塾の開設初期からある分野で、私は当初から講師を務めているので、もう27年目になります。
木工コースができた背景には、「木工ができる人がいなくなると、金沢漆器の“木地”をつくれる人がいなくなる」という状況がありました。そこで山出保・元金沢市長の時に、こうした技術継承の場を立ち上げてくださいました。


木工、竹工芸、加賀竿を学べるのは市内でここだけ
ーー職人減少の危機感から始まったものだったのですね。お隣の角間さんは元々木工コースの3期生で、現在は講師をされています。専門塾応募の経緯を教えてください。
角間:僕は京都の伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)を卒業して、その後、箪笥メーカーに就職しました。ただ、大きな会社だったこともあり、流れ作業でものをつくることにだんだん物足りなさを感じるようになって。それで金沢へ戻り、福嶋先生に弟子入りした時に専門塾の存在を知りました。
金沢で本格的に「木工」を学べる場所は、ここだけなんです。金沢美術工芸大学や金沢卯辰山工芸工房など、工芸を学べる美大や研修機関はありますが、木工の専門コースはありません。

ーー確かに。そういう意味では「竹工芸」や「加賀竿」についても、公的な環境で学べる場所は他にありませんよね。
本江:そうですね。昭和のある時期までは、農作業や日用品など、暮らしのあらゆるところで竹を用いた工芸品が用いられていて、金沢にも職人さんがたくさんいらしたとうかがっています。けれどプラスチック製品の普及などによって職人さんは激減し、私が橋本仙雪先生に弟子入りした当時は、先生を含めて数人だけでした。

全国からも羨まれる、整ったサポート体制
角間:専門塾では機械設備も材料も揃っていて、しかも受講料は基本的に無料(※)。これほど恵まれた環境はなかなかないと思います。
(※)…材料費や、道具代は自己負担。また加賀象嵌・彫金コースは受講料有りなど、コースにより異なるので要確認。
福嶋:全国の職人さんからも「金沢は専門塾があって羨ましい」とよく言われますよ。職人育成に対して市がここまでサポートしてくれているところは他にありませんから。
本江:だからこそ、この恵まれた環境をどう生かすのかは、ご本人のやる気次第。この場所を、自分の成長のためにどう活用し、意味付けて取り組めるかが、とても大事だと感じています。

未経験でも、情熱があれば開かれる門
ーー本江さんと共に、竹工芸コースで現在講師を務める橋本さんは、竹工芸未経験の状態で入塾されていますね。
橋本:はい。私の祖父は本江先生の師匠でもある橋本仙雪で、他の方に比べたら竹工芸が身近な環境ではありましたが、私自身はまったくの初心者でした。
金沢へ帰ってきたタイミングで、祖父の工房跡でカフェを営むことになり、店のショーケースに祖父の作品を展示する中で、少しずつ竹工芸への興味が湧いてきて。ちょうどその頃に専門塾の募集があることを知りました。
最初は「作品を扱う上で、竹工芸の知識を身につけた方がいいだろう」という動機だったのですが、学んでいくうちに「もっと上手くなりたい」という思いがどんどん強くなっていって。気づけばすっかりのめり込み、今に至る、という感じです。

「弟子を取れない時代」の、技の受け継ぎ方
ーー「加賀竿」は2024年に新たに専門塾に加わった分野です。現在、加賀竿をつくることができる職人は、市内で中村さんお一人とうかがっています。そんな中、加賀竿コースが新設されたことをどのようにお感じですか。
中村:大変嬉しいです。「加賀竿」は工芸の中でもかなりマニアックな分野ですから、専門塾に加えていただけたことで、まずはいろいろな方に知っていただくきっかけになるのではないかと思っています。

中村:そして「弟子を取る」ことが難しくなっている今日において、専門塾の存在はとても大きいと感じています。今通っている一期生も、実はもともと私のところへ弟子入り志願に来た子なんです。でも「この道では食べていけないから、やめておいた方がいい」と話し、「どうしてもやりたいのであれば現状をご両親に話をして説得してから来て下さい」と話しました。
すると、その後彼は親御さんを説得し、お父さんを一緒に連れてやってきた。お父さんも「できれば3年間は社会に出て、社会勉強もさせたい」というお気持ちだったので、「であれば、3年間働きながら週末専門塾に通って、見込みがあれば弟子入りを考えよう」ということに。いろいろなタイミングが、専門塾とぴたりと重なり合ったんです。

福嶋:今職人の世界は、どこもなかなか弟子を取ってあげられない状況だと思います。昔は寝ないでやるほど仕事があったから、少なからず弟子でも給料をいただけた。けれど、今現在において「技術を教えながら給料まで払う」というのは、ほとんど不可能に近いでしょう。そういう意味でも、希少伝統産業専門塾のような場があるのは、ありがたいことだと思います。

年齢を重ねた今だからこそ分かる魅力、挑戦の場
ーー希少伝統産業専門塾の中で唯一、金沢美術工芸大学など、他でも学べる分野が「加賀象嵌・彫金」だと思います。その中で、あえて専門塾にコースがある意義をどのようにお感じですか。
前田:やはり「若くなくても挑戦できる」、ということもあるのではないでしょうか。例えば進路を選択する10代や20代の頃には工芸に興味がなくても、年齢を重ねてから「やってみたい」と思う方もいらっしゃいます。中でも希少伝統工芸に分類されているものは、目に触れる機会自体少ないですし、若いうちから興味があるという人の方が珍しいのでは。
ーー確かに。工芸の良さは、年齢を重ねたからこそ気づける、という面も大いにあると思います。
前田:後継者の育成を目的としているため、入塾は50歳まで(※コースにより異なる)という年齢制限はありますが、「熱意があれば今からでも職人を目指せる」という希望が、この専門塾にはあると思います。


「習いたい」という、“直感”と“衝動”を肯定してあげたい
本江:この専門塾に応募された方は、「習いたい」という、人生のその時期における“直感”や“衝動”があってのことだと思います。
だからこそ、しっかりと技術を身につけていただいて、「あの時始めてよかった」「これだけの実りがあった」と、振り返ってその直感を肯定できるようにしてあげたい。そのために、毎週そばで応援するような気持ちで私たちも向き合っています。

まずは道具の手入れから。
「基本のき」から始まる学び
ーー今秋には木工と竹工芸、来春には加賀象嵌・彫金コースでも新規塾生募集が始まります。ここからは、実際にそれぞれのコースでどのようなことを学ぶのか教えてください。
福嶋:はい。塾生には経験者もいれば、まったくの初心者の方もおいでます。ですから木工コースでは、最初は、鑿(のみ)や鉋(かんな)といった道具の使い方や手入れの仕方から始めます。

ーー道具の手入れから。本当に「基本のき」から教えてもらえるのですね。
福嶋:そうですね。その上で一年目はまず、「刳物(くりもの)」という、一つの木から形を刳り出していく、木工の中でも非常に古い技法から学びます。その次に「指物(※ さしもの)」へ進む。
木工にもいろいろな技法がありますが、一つの木地をつくるためには、まずこの「刳物」と「指物」の技術を習得することが欠かせません。
(※)指物…釘を使わず、木に凹凸の切れ込みを彫って精密に組み上げる、伝統的な木工技術

「何度も何度も」同じことを繰り返す大切さ
前田:加賀象嵌は、「基礎/専門Ⅰ/専門Ⅱ」と段階が分かれていて、それぞれ担当する講師も異なります。基礎ではまず、象嵌で使う「道具そのものをつくる」ところから始めます。
ーー道具をつくるところから。「つくる」段階以前にも、やることがたくさんあるんですね。
前田:そうなんです。道具づくりも非常に大切な工程です。そこから金属の性質や扱い方を学び、加賀象嵌の基礎へと進みます。なので最初の1〜2年は、とにかく基礎の繰り返しですね。これは金工に限ったことではないと思いますが、とにかく「同じことを、繰り返し繰り返しやる」ということが本当に大切で。ようやく自分の作品をつくれるようになるのは「専門Ⅰ」に辿り着いてからですね。

ーーでは、竹工芸コースではどんな内容をされているのでしょうか。
本江:竹工芸は、一本の竹を鉈(なた)で割り、竹籤(たけひご)にして、それを編んでいきます。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、この「竹を籤にする」というところが、最初に越えていただきたい関門なんです。最初は皆さん「鉈が怖い」「難しい」と戸惑われますが、繰り返すうちにだんだんと慣れてくるものです。
その後、基本的な編み方を学んで、最終的にはそれらを組み合わせながら、ご自身がつくりたいものに挑戦していただきます。

中村:加賀竿も竹を用いますが、その選び方が重要で。本来なら山から竹を採るところから始めたいのですが、専門塾でそれをやっていては終わらないので(笑)、最初はある程度加工した材料を使います。
加賀竿は、とにかく工程が多く、全部で120工程ほど。竹を採ること、竿を設計すること、火を入れること、道具をつくること……覚えてもらうことは山のようにあって、講座の回数だけでは到底足りないので、毎週課題も出しています。今の一期生の子は、ほぼ毎日家でも作業しているようです。

「素材を見抜く目」を養う。手間をかけて「素材に寄り添う」
ーー工芸の中でも「希少伝統産業」と位置付けられている分野が揃っているわけですが、それぞれの難しさはどんなところにあるとお感じですか。
福嶋:木工で一番大事なのは、「素材を見抜く目」です。木は生き物ですから、同じ樹種でも育った環境によって変わります。同じ一本でも裏と表で性質が違えば、伸び縮みもする。木の性質を読みながら、それに応じて加工も微妙に変えなくてはいけません。
私も60年近くこの仕事をやっていますが、いまだに難しい。だからいつも木に言うんです「私はここまでやったんやから、あんたもう狂わんといてね」って。最後はもう、木に頼むしかない(笑)。

ーー素材を見抜く目と、素材に寄り添う手間のかけ方は、工芸ならではといえますね。
中村:木と同じで、竹も生き物です。なるべく狂いの少ない、丈夫な竹を採ってきて、火を入れて真っ直ぐに矯正する「火入れ(矯め)」 の工程を何度も繰り返します。一回だけでは、また戻ってしまいますからね。

「技術」だけじゃなく、背景にある文化や精神性も教え継ぐ
前田:「象嵌」という技法自体は他の地域にもありますが、その中でも「加賀象嵌」は特に工程が多いんです。使う道具も、使う地金も多く、手間も時間もかかり、制作にはとにかく根気が必要です。塾生さんからも「先生、これまだやるんですか?」とよく尋ねられますが(笑)、「まだまだ」と我慢してもらっています。
でもそれは、加賀象嵌が藩の武具や調度品など、「贅を尽くした加飾」に用いられてきた歴史と関連していると私は思っています。技術だけでなく、「加賀象嵌とは何か」といったところから伝えていくことも大切だと思っています。

本江:金沢における竹工芸は、お茶道具や花入れなど「座敷の上で使うもの」として残ってきた面があります。そこにはお茶の文化などが密接に関わってきます。
その時に「花が美しく映える高さ」など、何か一つアドバイスをするにも、私たち自身がお茶のお稽古などを通じて経験を積んでいなければいけません。だからこそ、講師である私たち自身も、日々勉強だと感じています。

ものづくりが好きな人、ものを使うのが好きな人
ーー専門塾に向いている人、あるいは職人に向いている人には、何か特徴がありますか?
角間:どうなんでしょう…やはり「ものづくりが好き」であることが第一なのではないでしょうか。
中村:「ものづくりが好き」に加えて、加賀竿の場合は、「釣りが好きな人」じゃないと難しいです。というのも、竿をテストするときに、自分自身がその良し悪しが分からなければなりませんので。
本江:あとは、暮らしの中で「こんなものがほしい」というひらめきがある方も向いているかもしれません。それはイマジネーションを与えてくれると同時に、制作への強いモチベーションにもなりますから。

真面目、謙虚、淡々と努力できる人
ーーなるほど、工芸は使うものでもあるので、「つくる」だけでなく「つかう」ことも好きな人の方が良いと。
角間:あとは、やはり「忍耐力」ではないでしょうか。こういう仕事って、一回つくれたからといって終わりじゃなくて、何回も何回もつくってやっとわかってくるものなので。繰り返しの中で「次はもっとこうしたい」という想いが湧いてくる方が伸びていくと思います。
ーー「忍耐力」のところで、一同頷いておられました(笑)。
橋本:結局「真面目、謙虚、淡々と努力できる人」、これに尽きるのではないでしょうか。「筋がいい」といったことよりも「努力できるかどうか」が大切。最初は不器用でも、こつこつと反復して、わからないところは質問して素直に実行できている方は、年齢に関係なく技術をものにされているように感じます。
ーー「才能」よりも、「努力ができる」ことが大切。何だか励みになるお言葉です。

職人を目指す「足がかり」として
ーーとはいえ「職人」というと、長い修行を経てようやく辿り着ける境地というイメージがあります。実際のところ、初心者からでも週一回の専門塾だけで、職人になれるものなのでしょうか?
福嶋:専門塾は基本3年なので、ここを出たから職人になれるというよりも、その道を目指す「きっかけ」として捉えていただくのが良いのではないでしょうか。
なにしろ、私らが修行していた時は、ほとんど休みなく3年間毎日やっていたわけでしょう。けれど、週1回5時間だけでしたら、3年続けてもその3ヶ月相当にしかなりません。
「職人」は、お客さんの要望と寸分違わないものをつくれないといけません。そこに“自分の意図”のようなものは一切入れたらいかんわけです。その技術を身につけるのは、やはり並大抵のことではありませんから。

橋本:専門塾からは、3年ごとに修了生を輩出しています。例えプロとして表には出ない方でも「竹工芸をやっている人がいる」ということがゆっくりでも広がりを見せると思いますし、「どうやって竹を割るのか」「竹籤をどうつくるのか」ということを具体的に知っている人材が金沢にいるということは、金沢の財産だと思います。この塾があるかぎり、金沢の竹工芸が途絶えることはないと、私は思っています。

ーー「職人」と「作家」もまた違うと思います。では専門塾を卒業した後は、どのように腕を磨いていけば良いのでしょうか?
角間:木工の場合、3年間のプログラムが修了したあとも、継続して受講する人もいます。(※最長9年間まで受講可能)
あとは公募展などに出品していくのも、一つの目標になると思います。金沢市が主催している「金沢市工芸展」はどなたでも出品できますし、そこで腕試しをしながら少しずつより大きな展覧会に挑戦していくのが良いのではないでしょうか。そこでギャラリーさんと繋がりが生まれたりもするので。


ーーやはり、人の目に触れることで成長していくところがあるのですね。そういう意味では、10月10日、11日に開催される「希少伝統産業専門塾交流会展」も楽しみです。
前田:そうですね。普段はなかなか展示できる場がないので、生徒さんもとても喜んでいます。やっぱり「人に見てもらう」ってすごく大事で。目標になるし、モチベーションも上がりますから。
橋本:いろんな方との出会いの場にもなるので、「こういうのつくってみてくれない?」という会話が生まれたら素敵ですよね。やっぱり「依頼をいただいたものに挑戦する」って、すごくいい鍛錬になると思います。
また、他コースの塾生さんとの交流の場にもなるので、横のつながりが育まれるきっかけになれば。私自身も専門塾に通っていた当時、自習時間に他コースの方からいろいろ教えていただいたことがあり、とても刺激を受けていました。

持ち寄った作品を鑑賞し合う先生方。互いの技術への質問が絶えず、職人トークが花開いていました。

橋本:そして今回、各コースの「実演」があることも見どころです。「専門塾でどんなことをやっているのか」「どんな道具が必要なのか」など、知っていただけるいい機会になると思います。
専門塾は普段から見学可能ではありますが、「見学に行く」というのもハードルにはなると思うので、ぜひこの機会に気軽にお越しいただけたら嬉しいです。
ーー交流の場と、気軽に見学できる場。「希少伝統産業専門塾交流会展」楽しみですね。先生方、本日はありがとうございました!

(取材:2026年8月)
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希少伝統産業専門塾交流会展
専門塾講師と受講生の作品を展示。講師の卓越した技術を間近で感じる実演ブースを設置。
<実演ブース>
・10/10(土) 10:00~12:00 竹工芸、13:00~15:00 木工
・10/11(日) 10:00~12:00 加賀竿、13:00~15:00 加賀象嵌
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