「ART FAIR TOKYO 20」レポート/「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢 」出展作家インタビュー
レポート
2026.04.27
それぞれの、新たな飛躍への“起点”として
【目 次】
・多様なジャンルの“今”が交差するエリア
・“今の自分”を、この一面に出し切って。/新城すみれさん(染色)
・“作家”としての自分を伸ばす場に。/中島ゆり恵さん(金工)
・境界やその間(あわい)を探りながら。/安藤項司さん(ガラス)
・作品を大切にしてくれる“パートナー”を探して。/やまわきてるりさん(陶芸)
・「いつかは自分が出る側に」その夢を叶えて。/北田杏実花さん(陶芸)
・「工芸であると同時に、華やかである」
・発信のための、“足がかり”として
2026年3月13日(金)から15日(日)まで、東京国際フォーラムで開催された「ART FAIR TOKYO 20」。
今年で20回目を迎えた本フェアは、現代アートから古美術・工芸まで幅広いジャンルが一堂に会する、日本最大級の国際的なアートフェアです。今回は、金沢クラフトビジネス創造機構が運営する東京のギャラリー「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」から出展した5名の作家のインタビューとともに、展示の様子をレポートいたします。


多様なジャンルの“今”が交差するエリア
国内外から141のギャラリーが集結するアートフェア東京。幅広いジャンルが合流する会場は「Galleries/Crossing/Projects/Encounters/Films」の5つの展示セクションに分かれています。
「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」が出展するエリアは「Crossing」。日本各地の伝統や文化を今に伝える地方の工芸作家をはじめ、アートの世界に新たな価値観を提案するアーティストを紹介。多様なジャンルによって支えられている日本のアートシーンの“今の景色”を伝えることをコンセプトとしています。


“今の自分”を、この一面に出し切って。/新城すみれさん(染色)
数多くのブースが並ぶ中で、ひときわ目を引くビビットな色彩。「遠くからも、この色が気になって」と足を運ぶ来場者も。
ブース奥の壁一面を彩るのは、染色作家・新城すみれさんの作品。ろうけつ染めと版画を掛け合わせた独自の作風に加え、抽象度の高い作品やろうけつ染めのみで仕上げた新作など、多様な試みが共存しています。

「今回の展示では、技法的にも表現的にも、自分の中での新たな試みを織り混ぜています。」と話す新城さん。 「手探りで模索しながらの制作で、『つらいけど楽しい』というか、久しぶりに研修生時代(金沢卯辰山工芸工房)の気持ちを思い出させてもらった気がしています。“今の自分”をここに全部出し切れたかな、と。」


取材日は一般公開初日ながら、すでに都内ギャラリーから展示の声かけもあったそう。「『これが染め物なの?』と興味を持っていただいたり、『他にはない表現だね』と言っていただけたり。“たくさんの人の目に触れる”ということの大事さを、改めて実感しています。」
場所が変わることで、作品の見え方や評価軸にも変化が。
「金沢では自分の中で“定番”だった表現が、ここでは新しく見られたり、またその逆もあったり。作品の位置付けが流動化する感じも面白かったですね。」
前回のインタビューでも“他者からの目線”が、自身の制作への大きな道標となってきたと語る新城さん。 「お一人お一人の感想も全く違いますし、その声を直接うかがえることがすごく嬉しくて。今回出展させていただいたことで、“これでいいんだ”と改めて思えたというか、“染めでやっていこう”という気持ちを再確認することができました。」

“作家”としての自分を伸ばす場に。/中島ゆり恵さん(金工)
植物など自然の有機的な形態が、金属という硬質な素材で柔らかに、そして自在に表現されている中島ゆり恵さんの作品。その緻密な造形は壁に落とす影までもが美しく空間を飾っています。

「金属は素材として強度があるので、細部まで表現できるところが好きです」と語る、金工作家の中島ゆり恵さん。
京都で金工技術を学び、その後、鋳物業が盛んな富山県高岡市にある鋳造メーカーに就職。休日に自身の作品制作を続けるも、若き作家たちとの出会いがきっかけとなり、本格的に作家として歩む道を志すようになったそう。
「金沢美術工芸大学出身の若い作家さん達が集まる工房に顔を出すようになり、すごく刺激を受けたんです。“やっぱり私も、作家として活動をしたい”という気持ちがどんどん強くなっていって。同時に、作家として“作品”をつくるには、まだまだ自分には足りない部分があることも痛感しました。もう一度勉強したいと、金沢卯辰山工芸工房に応募しました。」

今回作家公募に応募した動機も、「“作家としての作品”を見せられる機会を広げるため」だといいます。
「現在お世話になっているギャラリーで置かせていただいているものは、アクセサリーや菓子切りといった小物類が中心です。同時進行でアートワークとしての“作品”も制作しているので、こちらも観ていただける機会になればと、今回勇気を出して応募しました。」

自然物からインスピレーションを得る中島さんのシリーズの一つ、「星霜(せいそう)」には“積み重ねてきた時間を愛しむ”という思いが込められているといいます。技術に裏打ちされた確かな輝きは、中島さんのこれまでの歩みと重なるようでした。

境界やその間(あわい)を探りながら。/安藤項司さん(ガラス)
生命体のように見える、歪なフォルム。人肌を思わせるマットな質感ーー。独特の存在感を放ちながら一列に並ぶのは、安藤項司さんによる作品《うひつとわ》。作品タイトルは「うつわ」の文字間に「ひと」を挟み込んでいった造語だそう。

「僕は“人”としてこの作品を制作していますが、“蓮根”や“瓢箪”みたいと言われることも(笑)。人それぞれいろんな作品の見方があって、面白いなぁと思います。」と話す安藤さん。
「アートフェアはさまざまな反応がいただけるので、積極的に挑戦するようにしています。一人で制作していると、どうしても視野が狭まっていってしまうので。」

人の身体性をガラスの器に抽象化した安藤さんの作品。「器において、特に花瓶などの部分を表すときに“首”や“肩”といった、人間に用いる言葉を用いますよね。器と身体はどこかリンクするところがあるというか、その延長線でこの作品を作っているイメージです」
作品は吹きガラスでつくった造形に、土を混ぜたガラスを塗り上げ、もう一度窯で焼成するという独自の技法で制作されています。作家がつくるフォルムが、窯の中で歪み、変化するー‥。その中で曖昧になっていく「つくる」ことの境界を、安藤さんは探っているといいます。

《うひつとわ》の“頭”の部分は、実は栓のようになっていて開閉が可能。2本の足のような影が浮かび上がるキューブ状の台座も、“胴体”をはずすことができる仕様に。完全なるオブジェかと思いきや、用途も隠し持つ意外性が。
「花瓶にすることもできますし、中には“お酒を入れようかな”とおっしゃっていたお客様も。僕自身は普段グラスのような作品も制作しているので、“オブジェ”と“用のあるもの”の間というか、その境界も面白いなと思っています。」

「いろんな質感が生まれるところにガラスの面白さを感じている」という安藤さん。
「これからもアートピースだけにこだわらず、いろんなことをやってみたい。それも工芸らしさなのかなと感じています。」
作品を大切にしてくれる“パートナー”を探して。/やまわきてるりさん(陶芸)

海外での展示経験も多い、陶芸作家のやまわきてるりさん。今回の出展公募に応募した理由は「ギャラリーやキュレーターとの良いご縁を求めて」だと語ります。
「様々な展示をさせていただいていますが、実はまだどのギャラリーにも所属していないんです。近年海外とのやり取りも増えてきて、すべてに自分で対応することにも限界を感じてきていて。海外対応などの相談もできて、今後のキャリア形成を一緒にしていけるようなパートナーを探したいなと思っています。」

やまわきさんが作品制作において、重視していることの一つが“持続可能性”。そのためにもパートナー選びはとても重要だといいます。
「そもそも陶芸は、焼いてしまうと何千年と残って土には還らない。それに自分自身においても、死ぬまで制作を続けたいなら、健康でなければなりません。そういった意味でも“作品がただ売れればいい”という風には思っていないんです。環境も自分の生活も、なるべく削らずに制作を続けていきたい。だからこそ展示・販売、さらには100年後までも適切な形で作品を取り扱ってもらうことがとても大事だと考えています。」

「作家さんによって最終目標はいろいろ異なると思いますが、『自分が死んだ後も作品が大切に保管されて、たくさんの人の目に触れる』ということは、作家としての喜びの一つではないかと思います。いいコレクターさんや美術館の手に渡れば、作品が適切に管理されて“みんなのもの”になる。全てにおいてそのためのパートナー探しだと思っています。」

「いつかは自分が出る側に」その夢を叶えて。/北田杏実花さん(陶芸)
最後にお話をうかがったのは北田杏実花さん。北田さんは金沢美術工芸大学の大学院に進学したばかりの時期に「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」でインタビューさせていただきましたが、この春で大学院も修了だそう。

今回の出展作品《未だ、誰でもない身体》は、当時の作風をさらに発展させたもの。骨や関節を思わせる白磁と、筋肉やゲノム構造を想起させるような編み物で構成された、唯一無二の「うつわ」。当時の可愛らしいサイズ感から、巨大化してパワーが漲る新作に、北田さんの成長が重なります。
「2024年の《Someone’s vase》というシリーズは、“うつわ”というものへの自分の中の問いから『誰かの何かが入るうつわに』というテーマで制作したものでした。“何が入る器なのか”という部分を追求していくなかで、『肉体は、魂が入る“うつわ”なのではないか』という一つの答えに行き着きました。」

アートフェア東京には「いつかは自分が出る側に」という目標を持っていたと語る北田さん。
「昨年はいち観覧者として訪れていたのですが、国内外で活躍される方々の作品を目の当たりにして、私もここで“作品を出す側”になりたいと強く思いました。だからこそ、金沢クラフトビジネス創造機構さんからの公募告知をみた時は“これは応募しなくては!”とすぐに思いましたね。」

この春から、関東に制作の拠点を移すことが決まっている北田さん。
「金沢は大学に入学するまで訪れたことがなく、まさに未知の土地でした。当初は太平洋側との気候の違いに戸惑うこともありましたが、金沢でいつも目にしていた“曇天のグレー”はいつしか私の一部になって、作品の白磁の色味ともどこかリンクしているようにも感じています。
金沢は工芸が本当に盛んな街で、“作品を作る場”としても、“作品を発表する場”としてもすごく恵まれていたなと感じています。またどこかで皆様のお目にかかれるよう、これからも頑張っていきたいです。」

「工芸であると同時に、華やかである」
一般公開初日ながら、多くの人が行き交っていた「Crossing」エリア。「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」のブースも、終日来場者が絶えませんでした。
「今回は『想像の領域から来るモノたち』をテーマに、様々なタイプの作品が同居しています。“工芸”というと、シックなトーンにまとまりがちですが、今回は“工芸であると同時に華やかである”という両立が実現できて、個人的にも満足しています。それによって工芸の敷居も低くなってフレンドリーな印象になることで、来場者が訪れやすい空間をつくれたのではないかと思います。」
そう語るのは「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」ブースのディレクションを担当した原嶋亮輔さん。原嶋さんは応募作家30名以上へのインタビューも担当しました。

発信のための、“足がかり”として
「若手作家が持つ“勢い”と、ある程度キャリアを重ねた上での“挑戦”。それぞれの熱量が温度感高く共存している空間になったと思います。アートフェアに色々な目標を持って臨んでおられると思いますが、それぞれにとっての“発信していくための足がかり”として活用してもらえる場であることが、機構が営むギャラリーとしての大事な役割だと思っています。ここを起点としていい出会いにつながり、さらに羽ばたいていっていただけることを願っています。」

(取材:2026年3月)
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